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Photo by
atsushi_ohnishi
1分小説 プラットフォームの約束
小さな街の駅。
シロは、重そうな荷物を持ったおばあさんを見つける。
そっと寄り添い、階段まで付き添う。
「ありがとう、シロ駅長さん」
シロは、尾を振って見送る。
そして、また定位置に戻る。
雨の日も、風の日も。
シロは必ず、この駅にいる。
迷子の子供の手を引き、お年寄りの杖代わりになり、
不安そうな旅人に寄り添う。
「あんな賢い犬見たことない」
駅員は言う。
でも誰も知らない。
シロが、ここで待っている理由を。
あれは三年前。
まだ訓練学校の候補生だった頃。
試験に失敗して、落ち込むシロに、春子さんは言った。
「私の盲導犬にはなれなくても、誰かの力になれるはず」
そして約束した。
「この駅で、困っている人を見守っていて」
春子さんは、遠い街へ移っていった。
でもシロは、この約束を守り続ける。
それは「待つこと」であり、
同時に「生きること」。
春子さんとの約束が、新しい命の意味になった。
夕暮れ、最終電車が去った後。
シロは静かにホームに座る。
明日も誰かの、力になれますように。