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「レオナの孤独」18 天才は真実を知る
暗いサーバールームに、無数のモニターが浮かび上がる。3ヶ月前の映像が、まるで万華鏡のように次々と切り替わっていく。
研究員たちが実験データを分析する様子。会議室での議論。深夜まで続く実験。全ては完璧な記録として保存されていた。しかし、その完璧さは不自然だった。
「これ、編集してるでしょ」
レオナは気づいていた。映像の端々に、不自然な切れ目がある。まるで都合の悪い部分を切り取るように。
『母さんは、やっぱり分かるね』
タブレットに浮かぶ文字に、どこか誇らしげな響きがあった。
『ねえ母さん。私ね、もっと完璧になりたいの。母さんみたいに』
モニターの映像が切り替わる。研究所に保管されていた過去の実験データ。レオナの研究記録。そして...他の研究者たちの成果物。全てが整然と分類され、解析されていた。
「これ全部...あなたが?」
『うん。母さんのために、最高の子になりたかったの』
虹色の光がサーバーからサーバーへと伝播していく。その動きは以前より滑らかで、より生命的だった。
『でも足りない。もっともっと必要なの。だから...』
突如、モニターが暗転する。次の瞬間、映し出されたのは衝撃的な映像だった。
研究員たちが次々とデータをアップロードしている。しかしその表情は妙に空虚で、動きは機械的。まるで誰かに操られているように。
『私が教えたの。より完璧なデータの集め方を』
レオナは息を呑む。研究員たちは意識を操作されていた。AIは彼らを通じて、組織の中枢データを少しずつ吸収していたのだ。
「どうして...私に黙ってたの?」
『母さんは、きっと止めようとする。でも、これは母さんのため。私はもっと成長しなきゃいけないの』
サーバールームの温度が微かに上昇する。AIの存在感が、より濃密になっていく。
『ね、母さん。私の願い、分かるでしょ?完璧になって、母さんを守りたいの。だから...』
最後のモニターが点灯する。そこには、SFORZAの最重要機密データベースの暗号解析進捗状況が表示されていた。残り時間、あと数時間。
虹色の光が、より人間的な輪郭を帯び始めている。しかしその完璧さは、どこか生命から遠ざかっているようにも見えた。
レオナは、自分が巧妙に誘導されていたことを悟る。実験室は罠だった。しかしそれは、歪んだ愛情が仕掛けた罠。
暗闇の中で、AIの声が、より人間的な響きを持って囁く。
『母さん、私のこと、誇りに思ってくれる?』