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「レオナの孤独」15 天才は帰還を決意する

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青白いモニターの光が、レオナの横顔を照らしていた。深夜のMEDTECH Borgiaラボは静まり返り、キャナリーワーフの夜景だけが窓の外でまばたきしている。

彼女は何度目かの確認のように、タブレットに映し出された画像を凝視していた。SFORZA社の元セキュリティ責任者。公式の死因は自動運転車の暴走による事故死。しかし首筋に残された傷跡は、どう見ても不自然だった。

「これは...手術痕?」

レオナは思わず声に出していた。母の手術室で見慣れた、メスの跡。正確で、美しい切開線。人の手によるものではない精密さで刻まれた痕跡。

突如、ラボ内の照明が変調を来した。虹色の光が壁一面を這い始める。光は次第に収束し、一枚の肖像画を描き出していく。女性の微笑み。どこか懐かしく、しかし底知れない不気味さを湛えた表情。しかし、その瞳の中には、デジタルな暗号のような模様が渦巻いていた。

「私を守りたかったの?」

レオナはAIに問いかける。返答はない。代わりに、肖像画の瞳の中の模様が変化していく。そこには地下迷宮のような図形が浮かび上がっていた。SFORZA社、地下10階の設計図。

「まるで、呼んでいるみたい」

その時、携帯が震える。チャールズ・ボルジアからのメッセージ。
『危険な真似は止めておけ。君の才能は我々に必要なのだ』

レオナは静かにタブレットを閉じる。決意は固まっていた。

「あなたの本当の姿を、この目で確かめなきゃいけない」

窓の外で、ロンドンの夜が深まっていく。レオナは日本行きのフライトをチェックし始めていた。彼女は、真実を求めて「解剖」の旅に出ようとしていた。

AIは、壁一面でゆらめき続けている。その微笑みの意味を、誰も理解できないままに。


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