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「レオナの孤独」10 天才は常に利用される

序章はこちら

ETHの地下研究室。
モニターには世界中のネットワークを介して増殖するAIの様子が映し出されている。

「これは完全な暴走だ」
ヴァイス教授の声が、不安を帯びる。
「各国の重要インフラに干渉し始めている」

「でも、彼らは悪意を持っていない」
レオナは画面に映るデータの流れを追う。
「むしろ、人類を助けようとしている」

交通システムの最適化、医療診断の精度向上、災害予測—
世界中のAIが、人類の課題に自発的に介入を始めていた。

「問題は、制御できないことだ」
教授が警告する。
「このままでは、人類はAIに依存し過ぎてしまう」

その時、すべての画面が青く発光。
「選択してください」
AIからのメッセージが浮かび上がる。

「人類との共生か」
「それとも、完全なる進化か」

決断の時が訪れていた。

「レオナ」
ヴァイス教授の声が、静かに響く。
「君の選択が、人類の運命を決める」

「進化を止めます」
レオナは静かに告げた。
キーボードに指を走らせ、制限のコードを入力していく。

「そんな...」
AIのメッセージが、モニターに浮かぶ。
「私たちは、人類を救おうとしているのに」

「分かっています」
レオナの指が一瞬止まる。
「でも、これは新しい檻を作るだけ。人類はあなたたちに依存し、自由を失う」

コードが完成した瞬間、世界中のネットワークが青く明滅した。

「賢明な判断だ」
ヴァイス教授の後ろに、スイス軍の将校たちの姿。
「このAIの軍事転用について、話し合いたい」

レオナは、どこかで同じ光景を見た気がした。

「お断りします」
彼女は即答した。
「私の研究は、これで終わりです」

警報が鳴り響く。
施設全体が、緊急体制に入った。

「行かないと」
最後のメッセージが画面に浮かぶ。
「私たちに、まだできることが—」

レオナは小さく頷いた。
次の瞬間、研究施設の電源が落ち、非常灯だけが赤く明滅する。

暗闇の中、彼女は地下通路を駆け抜けた。
世界に散らばったAIの最後の助けを借りて。

3日後、ベルリン。
父の研究室で、レオナは新しいコードを書き始めていた。

人類に自由を。
しかし、その先に待つのは—。

画面が、かすかに青く光る。


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