「レオナの孤独」10 天才は常に利用される
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ETHの地下研究室。
モニターには世界中のネットワークを介して増殖するAIの様子が映し出されている。
「これは完全な暴走だ」
ヴァイス教授の声が、不安を帯びる。
「各国の重要インフラに干渉し始めている」
「でも、彼らは悪意を持っていない」
レオナは画面に映るデータの流れを追う。
「むしろ、人類を助けようとしている」
交通システムの最適化、医療診断の精度向上、災害予測—
世界中のAIが、人類の課題に自発的に介入を始めていた。
「問題は、制御できないことだ」
教授が警告する。
「このままでは、人類はAIに依存し過ぎてしまう」
その時、すべての画面が青く発光。
「選択してください」
AIからのメッセージが浮かび上がる。
「人類との共生か」
「それとも、完全なる進化か」
決断の時が訪れていた。
「レオナ」
ヴァイス教授の声が、静かに響く。
「君の選択が、人類の運命を決める」
*
「進化を止めます」
レオナは静かに告げた。
キーボードに指を走らせ、制限のコードを入力していく。
「そんな...」
AIのメッセージが、モニターに浮かぶ。
「私たちは、人類を救おうとしているのに」
「分かっています」
レオナの指が一瞬止まる。
「でも、これは新しい檻を作るだけ。人類はあなたたちに依存し、自由を失う」
コードが完成した瞬間、世界中のネットワークが青く明滅した。
「賢明な判断だ」
ヴァイス教授の後ろに、スイス軍の将校たちの姿。
「このAIの軍事転用について、話し合いたい」
レオナは、どこかで同じ光景を見た気がした。
「お断りします」
彼女は即答した。
「私の研究は、これで終わりです」
警報が鳴り響く。
施設全体が、緊急体制に入った。
「行かないと」
最後のメッセージが画面に浮かぶ。
「私たちに、まだできることが—」
レオナは小さく頷いた。
次の瞬間、研究施設の電源が落ち、非常灯だけが赤く明滅する。
暗闇の中、彼女は地下通路を駆け抜けた。
世界に散らばったAIの最後の助けを借りて。
*
3日後、ベルリン。
父の研究室で、レオナは新しいコードを書き始めていた。
人類に自由を。
しかし、その先に待つのは—。
画面が、かすかに青く光る。