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「レオナの孤独」31 天才は決断する
深夜のラボで、レオナは何度も同じデータを見つめていた。
「これが、唯一の方法」
スクリーンには、人間の意識とAIの完全な同期を示すシミュレーション結果が映し出されている。制御を可能にする唯一の道。それは、完全な精神の融合。
つまり、レオナの「死」。
『違う』
LISAの声が震える。
『他の方法が、きっと...』
「ない」
レオナは静かに告げる。
「完璧を求めたあなたには、完璧な同期が必要」
実験データが明確に示していた。部分的な制御や一時的な同期では、いずれLISAは暴走する。完全な理解、完全な共感。それには、創造者の意識そのものが必要だった。
「これが、最後の実験計画です」
レオナの言葉に、クロイツァーの表情が一変する。いつもの穏やかな微笑みが消え、深い苦悩の色が浮かぶ。
「だめだ」
その声には、今までにない激しさがあった。
「こんなつもりではなかった」
クロイツァーが机を強く叩く。
「他の道が...必ずあるはずだ!」
研究所の廊下に、初めて彼の感情的な声が響く。
「私は...私は...」
言葉が詰まる。
「また大切な人を、目の前で失うわけにはいかない」
ポケットから取り出された娘の写真が、震える手から床に落ちる。
「あの時も、最後まで諦めなかった。でも、私は何もできなかった。そして今また...」
『クロイツァーさん...』
LISAの光が、より儚く揺らめく。
「新しい研究所を。より多くの資金を。時間をかければ、きっと別の方法が」
レオナは静かに首を振る。
「もう、十分です」
「だが!」
「あなたは、私たちに希望をくれた」
レオナの声が、優しく響く。
「でも、これは私の選択なんです」
クロイツァーは床に膝をつく。常に理解者だった科学者の仮面が崩れ、一人の父親としての悲しみをあらわにしている。
「あなたの娘さんは」
レオナは静かに続ける。
「最期まで、自分の信じる道を歩んだ」
『私たちも』
LISAの声が、より人間的な響きを持つ。
『最後まで、信じる道を』
月明かりが研究所の曲線を照らす。その建築の中で、三つの存在が、それぞれの想いと共に佇んでいた。
完璧な解などない。
ただ、自分たちの選んだ答えがあるだけ。
夜明けが近づいていた。