【レポート】アパレル2021春夏は例年より少ない在庫で売上を作る勝負に/20年3~11月決算まとめ
Zaikology Newsを運営するフルカイテン株式会社は、大手上場アパレル企業が2020年3~11月に仕入れ(発注)を抑制した実態を調べ、売上ではなく粗利(売上総利益)や利益率を第一に考える経営への転換について考察するレポートを作成しました。
本稿では、このレポート全文をご紹介します。
16社中14社が仕入れを抑制。三陽商会は34%減
本レポートの調査対象は2月期・5月期・8月期決算の主要なアパレル企業16社の2020年3~11月における決算。公表資料(四半期報告書または決算短信)を基に計算した。
2020年3~5月は新型コロナウイルス感染拡大の第1波の影響で緊急事態宣言が出ていた時期と重なり、販売機会を失った春夏物を中心に在庫が多く残った。6月以降も販売状況は総じて好転せず、
緊急事態宣言が解除された後も売上は例年のようには戻らなかった。
このため、3~8月期は2020年秋冬ものを中心に仕入れを抑制する動きが相次いだ。16社のうち13社が前年よりも発注を抑制し、前年より増加した3社も増加率は1.0~2.4%と小幅にとどまった。
※詳細は2020年10月22日公表の別レポート「主要アパレルのコロナ決算に見る2つの戦略。下期以降の『粗利第一』に向けた序曲に(2020年3~8月決算まとめ)」を参照(https://full-kaiten.com/news/report/2339)
続く9~11月期は感染拡大の第3波の直前に当たるが、この期間の期中仕入れは翌2021年春夏物の発注量が反映される。
表1の左2列で、2020年3~11月における期中仕入れ額が前年同期と比べどれくらい増減したかと、2020年11月末時点の在庫金額が前年同期と比較してどの程度増減したかをまとめている(売上高順)。
16社のうち14社が前年よりも仕入れを抑制しており、前年より増加した2社も増加率は4.7%、5.0%と小幅だった。2020年春夏物を翌2021年春夏へキャリーした会社が多かった可能性がある。
一方、11月末の在庫高は16社のうち14社が前年を下回り、2社はそれぞれ1.1%、7.6%増えている。前年を下回った14社の減少率は3.0~25.4%だった。
売上減少ペースに在庫削減ペースが追い着かず
在庫が減少すること自体は、キャッシュ(手もと現金)が増え経営にとって健全なので一概に悪いとは言えない。しかし単なる在庫減少は、売上の減少を招いて事業をシュリンクさせるだけ、という問題も孕む。
このため、より少ない在庫でいかに多くの粗利を生み出すことができるかという視点が、経営の重要な尺度になる。その指標として有効なものの1つがGMROI(商品投下資本粗利益率)だ。
※GMROI:小売業などの在庫ビジネスにおいて、保有する在庫を用いて効率的に粗利(売上総利益)を上げる力、つまり「どれだけの在庫で、どれだけの粗利を確保したか」を表す指標。(粗利額) ÷ (期中平均在庫高)で求められる
表1の右2列で、「少ない在庫で多くの粗利(売上総利益)を生む力」を指すGMROI(商品投下資本粗利益率)について、2020年3~11月の数値を一覧にしている(売上高順)。
郊外に店舗が多く、緊急事態宣言下にあっても大半の店舗が営業を継続していた西松屋チェーンと、しまむら、マックハウスを除く13社が前年と比べ悪化した。
この13社のうちコックスとハニーズホールディングス以外の11社は前年より在庫高が減っている。にもかかわらずGMROIは悪化しているということは、在庫高の減少を超える粗利の減少が起きたということだ。
ここで、3~11月における販売行動として、2つの仮説を立てることができる。
① 仕入れの抑制と値引きによって在庫消化を進めた
② 仕入れの抑制はしたが、値引きによる在庫消化は無理に進めなかった
①には在庫高の減少率が大きい会社が、②には在庫高の減少率が小さい会社と在庫高が増加した会社が該当するとみられる。
TSIホールディングスは仕入れを17.1%削減し、11月末の在庫高も17.2%減少した(表1)。この結果、粗利率は前年と比べ6.38ポイント低下(表2)しており、①に入るであろう。
一方、ハニーズホールディングスは仕入れを13.3%抑制(表1)した一方で、11月末の在庫高は1.1%の微増にとどめた。この結果、粗利率は前年比マイナス0.13ポイントとほぼ横ばい(表2)となっており、②に分類されるとみられる。
2021年春夏季はさらに在庫が限られる
2020年11月末の対前年増減率を8月末のそれと比較したのが次頁の表3だ。2020年11月末時点の在庫高は、8月末時点よりもさらに減少していることが分かる。
16社のうち三陽商会を除く15社で、8月末時点よりも11月末時点の方が減少率が大きくなった、あるいは増加率が小さくなっている。
つまり、2021年春夏物の仕入れを抑制した度合いが、2020年秋冬物の仕入れ抑制度合いよりも大きいことを意味している。
発注ー生産ー納品というサプライチェーンのリードタイムを考慮すると、昨夏のコロナ感染拡大の第2波のあと、第3波より前から各社とも2020年秋冬物を超える度合いでの仕入れ抑制に動いていたことが窺える。
ただ、2020年秋冬物の仕入れはコロナ第1波の前にある程度、発注を済ませてしまっていて、十分には抑制できなかったケースがあることも影響していると本稿はみている。それと比べ、2021年春夏物の仕入れは、計画通りに抑制できるとみるのが妥当ではないか。
その要因は様々であろう。もともと2020年春夏物の在庫が残っているため、2021年春夏はキャリー品を組み合わせたMD(マーチャンダイジング)を組むことを想定しているケースや、コロナ禍の影響を保守的に見積もって需要の回復は鈍いと予測したケースがあるとみられる。
アパレル産業ではこれまで、欠品を過度に恐れ「売上を失うより在庫を持つ方がよい」という考え方が主流だったために、在庫過多が解決されてこなかった。しかし、仕入れを大きく抑制した2020年秋冬以降は、限られた商品在庫で売上を立てていかければならないという、経験したことの無いシーズンが続く。
こうした環境下で、在庫を多く持つことで売上増加を目指す従来のビジネスモデルにとどまっていては、仕入れを抑制している分、売上も比例して減る“ジリ貧”に陥ってしまう。
また、国内小売市場は、2030年に向けて急速な人口減少と個人消費の減少に伴う需要の消失が確実だ。縮小する市場で売上を追うと顧客の奪い合いが起き、過度な価格競争によって規模が大きい事業者が生き残る淘汰が起きることは明白であろう。
縮小市場において限られた在庫で事業を成長させるには、売上原価を構成する商品原価、値引き、評価減(商品評価損)の3要素を正しく理解し、売上第一ではなく粗利を第一とするビジネスモデルへの変革が必須となる。
実際、TSIホールディングスでは、2020年9~11月期でみると、基幹ブランドが2桁の減収となったものの発注抑制とセール抑制により増益に転じた。
「粗利第一経営」への転換の試みは、市場規模が縮小していく我が国の小売業界にとって、コロナ禍で疑似体験した2030年以降の需要消失時代における経営の形を占う試金石となるであろう。
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※本調査は、対象となった上場企業16社の経営成績や財政状態の優劣を評価するものではありません。