【作品レビュー】静寂と躍動が折り重なる揺らぎ、はじめてのワンマン|"For you, Adroit it but soft" Release Event
2015年に滋賀県で結成されたシューゲイザー/ドリームポップバンド、揺らぎによる初のワンマンライブ『"For you, Adroit it but soft" Release Event』が去る7月17日に渋谷WWWで開催された。
本公演は揺らぎの最新作『For you, Adroit it but soft』のリリースを記念した彼女たち初のワンマンライブで、 有観客での開催ではあったもののチケットは完売、ライブ後にはストリーミングでのライブ映像配信が行われ、好評が好評を呼ぶ形となり公演アーカイブがZAIKOプレミアム内『ZAIKO TV』にて現在配信中となっている。
すでに揺らぎのライブを体験したことのあるファンはもちろん、彼女たちの演奏を未見の各々方にもぜひおすすめしたいと思う。
まず映し出されるのは今回ライブ前のDJアクトとして出演した邦人ビートメイカー/プロデューサーのBig Animal Theory。揺らぎのリミックスや最新作収録“Dark Blue”でも共同制作をする彼はこの日、バラクラバにセットアップという全身白の匿名性の高い衣装でまとめ、ラップトップとAKAI MPD32によるDJセットを披露した。約55分間、アンビエントからブレイクビーツ、当世UK感漂うダンスミュージックなどを彼の楽曲にも通じる世界観でまとめ上げた。
そこからシームレスに最新作の冒頭を飾るインストゥルメンツ“While The Sand's Over”でライブはスタート。そのままボーカル&ギターのMirai Akita、ギターのKantaro Kometani、ドラムのYusei Yoshida、そしてサポートでベースを務めたFaded old cityのRomeo Kase(かつて揺らぎのサポートギターとしても活動していた。なお、正規サポートメンバーでレコーディングに参加したUjiは自転車事故による怪我により参加できず)の演奏で“Sunlight's Everywhere”がはじまる。
4人の背面スクリーンにはVJのAmni with Xtreamによる世界観を象徴した映像が映し出される。その後もMCを挟みつつ過去作より“Soon”や“Bedside”などの人気曲も披露。Kantaro Kometani肝入りのスロウコアテイストの導入からはじまる“That's Blue, I'll be coming”はライブ会場ならずともその幽幻さ、フック以降の展開に見入ってしまう。
ライブ本編のラストは最新作収録“Underneath It All”〜前作ラストの“Path of the Moonlit Night”という流れ。特に白眉はラストで、10分近くある長尺楽曲を静謐さを湛えた前半部からエモーショナルな展開が用意され、ドラマチックな後半を見事に演奏しきり本編を締めくくった。
アンコールではアコースティックギターのみでの“Memorable Track”などを披露。振り返ればダブルアンコールでしっかり観客の期待にも応え、揺らぎにとってはじめてのワンマンライブは大成功を収めた。
文頭では便宜上、彼女たちを“シューゲイザー/ドリームポップバンド”と明記したものの、揺らぎが最新作においてその範疇を超えていることは明らかだ。たしかに音像からシューゲイザー的な要素は伺えるものの、あくまでフィードバックノイズや多重なレイヤーは楽曲における空間演出の一助であり、聴感でいえばアンビエントやエレクトロニカの影響も多分に感じるし、最新作はそういった幻想的なサウンドの中心に大きな幹として“歌”が据えられているように思う。
それはライブにおいても言えることで、本公演からもそういったバンドの現在の成長、推進力の一片が見て取れるのではないだろうか。