【インタビュー】SUKISHA - 遅れてきたシンデレラボーイ|MIDNIGHT RADIO
ZAIKOによるサブスクリプション型プレミアム会員サービス「ZAIKO プレミアム」にて、深夜ラジオ風番組『MIDNIGHT RADIO』の配信が昨年12月2日からスタートした。本企画は、ermhoi、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、食品まつり a.k.a foodmanxTaigen Kawabe (Bo Ningen)、SUKISHAといったいま注目のミュージシャンがトークと演奏を披露する映像コンテンツで、各エピソードにつき1組のミュージシャンが登場する。
番組初回を担当したermhoiに続き、シンガー / トラックメイカーのSUKISHAが登場。MIDNIGHT RADIOでみせた飄々として掴みどころがない様子は、今回のインタビューでも相通ずるものがあった。現行のスタイルに至るまで紆余曲折を経た彼は、インディペンデントで“楽しそう”である。もちろん彼にしか分からない苦悩や葛藤はあるだろうが、これまでの不遇の時代の話を聞くと、今の彼の活躍ぶりには感慨が湧く。番組本編では当時の様子も語られているので、ぜひ音楽と併せて聞いてほしい。
本稿はさながら、「MIDNIGHT RADIO」のボーナス・トラックのようなものだ。この記事を読んでからMIDNIGHT RADIOを聴き(あるいは観に)に行っても楽しめるだろうし、その逆もまたしかりである。また、今回のインタビューに際し、SUKISHAと共同でスペシャルなプレイリストも作成した。
取材:川崎友暉
撮影:マジック・コバヤシ
- MIDNIGHT RADIOでは語られなかったSUKISHAさんの音楽的なルーツについてお聞きしたいです。D'AngeloやMoonchildが重要なインスピレーションと伺いましたが、SUKISHAの音楽からはもっとジャンル的な広がりを感じます。
今の音楽に落ち着くまでは確かにその2組は重要だったんですけど、それ以前を辿るともっとバラバラですね。高校入る前ぐらいにミスチルにめっちゃハマって、その後にGRAPEVINEやBLANKEY JET CITYなど、いわゆるJ-Rockを聴くようになりました。コピバンも組んだりして、自分でも色々演奏してましたね。だから僕、J-Pop育ちなところがあるんですよ。メロディーや曲の構成としては日本のポップスの影響も受けてます。ブラックミュージックに傾倒し始めたのはその後です。
- 具体的にはどのタイミングでブラックミュージックが入ってきたんですか?
コピバンを組んだのが大学生の頃だったんですけど、軽音サークルとジャズ研の両方に入ってたんです。ジャズ研の方はジャズに限らず様々なジャンルを聴く人が多くて、そこからネオソウルとかファンクに派生していった感じですね。ロイ・ハーグローヴとかから入って、D'Angeloに落ち着いたというか。それから高校の友達も情報源として大きかったです。フィッシュマンズとかSly & the Family Stoneはその友達から教えてもらいましたし、そこでもD'Angeloの名前は出てたんです。そういうのが積み重なって、今に至るという。演奏する側に回ると、彼らのレベルの高さを痛感するんですよね。Slyやフィッシュマンズ、あるいはD'Angeloの音源と自分のコピバンの音を比べて差に愕然としたんです。歪んだギターの音なんていらなかったんだって(笑)。手間のかけ方というか、完成度が全然違うなと。彼らは勢いじゃなくて実力で鳴らしてるんですよね。ビートひとつひとつに説得力があるから、全体が高いレベルで成り立ってる。
- フォークシンガーとして活動されるのはその後ですか? その頃のSUKISHAさんのお話ってあまりメディアに残っていないように思うので、ぜひお伺いしたいです。
2016年ぐらいの時期ですね。実はフォーキーなことをやりたかったわけじゃないんですよ(笑)。当時は感じていたことをそのまま歌にしたいと考えていて、純粋に“主張めいたこと”がしたかった。で、アコギで曲作ってそれをそのまま披露したら、聴いてくれた何人かに「フォークっぽいね」と言われまして。その時の僕は特定のジャンルの音楽をやりたかったのではなく、Radioheadみたいになりたかったんですね。彼らの「新しいことをやり続ける、挑戦し続ける」というスタンスに今も共感しています。既存のフォーマットに左右されず、誰も聴いたことのない音楽をやりたかった。そういう考えのもと、自分の暗い日常や沈んだ気持ちをしたためて楽曲にしたらどうなるんだろう?と試行錯誤していたら、いつの間にか“フォーク”と呼ばれていました。自分ではその頃から広義のブラックミュージックをやってるつもりだったんですよ。
- それは音楽のテクスチャーの話ですか?
作りもそうですけど、割と精神的な部分でも。今聴き返すと、当時の自分はめちゃくちゃ頑張ってるんですよ。そういった、そのときできる精一杯の頑張りってそもそもブラックミュージック的だと思うんですね。その中になぜかアコギの音が入ってたりするんで、確かに“聴いたことない音楽”ではあると今も自負してます。ソウルやR&Bが基軸であるという点では、SUKISHAとして今僕が作ってる音楽とそこまで差はないんじゃないかと。自分では当時より分かりやすい形に進んでいったのが現行のスタイルだと思っています。
やっぱり暗い曲はねー、僕は好きですけど、まぁ流行らない。一緒にバンドを組んでいた友達がいるんですが、そいつもいまだに当時僕がやっていた音楽を褒めてくれるんですよ。でも同時に「あんな暗い曲が売れるはずはないよね」とも言われていて(笑)。頑張りに頑張りを重ねていた時期の音楽は怨念みたいなものが感じられて、聴きやすくはないですね。
- MIDNIGHT RAIDIOでも弾き語りを披露されてましたが、今のスタイルに継承されている部分はありそうですね。当時の音楽も、時代が違えば受け入れられたのかなと思ったりします。
いやー、難しいと思いますよ(笑)。ビリー・アイリッシュみたいな品のある暗さじゃないですから。もっとドロドロしていて、そこにブラックミュージックの要素をあわせるみたいな感じだったので、まぁウケないのも仕方ないのかなと。…と言いつつ、横目でWONKやSuchmosがブレイクしてゆくのを見ていて、しっかり捻くれてましたけどね。「なんで俺の頑張りは評価されないんだ」って。それを経て、自分の得意な部分と世の中を一度すり合わせてみようって作ったのが、最初にSUKISHA名義で出した曲なんです。
- SUKISHA名義になられてからはダンスミュージックへの接近が顕著ですが、何かリファレンスになったアーティストや楽曲はありますか?
特定のアーティストはいないですね。もちろん素晴らしい楽曲があればそれぞれ参考にはしますけど、1回聴いてそれと分かるような音楽は作りたくないです。僕も自分の音楽が丸々オリジナリティで構成されているとは思ってないですし、そもそもオリジナルなものって真似から始まるので、影響を受けること自体には抵抗ないです。音の組み合わせ方や選び方に新規性は宿ると思っていて、僕はそういうところを意識的に取り組んでますね。リズムはこういう音楽を参考にして、メロディはあのアーティストのやり方を真似て…みたいな感じで。ただ、真似ようとしても真似できない音ってあるので、そういう部分がオリジナリティのヒントなのかなと思ったりします。
- まさしく「Radioheadには今も共感している」という話のように思います。そう考えると、明確にLo-Fiヒップホップを下敷きにした『Anti Creativity』はかなり異色のように感じますね。
そうですね。それに関しては僕の性格の悪さに起因してます(笑)。正直あのEPはフェイクなプロデューサーへの当てつけのつもりで作りました。今は「Splice Sounds」(サンプル音源のサブスクリプション・サービス)とかあるから、Lo-Fiヒップホップってめちゃくちゃ手軽に作れちゃうんですよ。このEPも3日で作りましたから。大半のLo-Fiヒップホップは、先人が一生懸命演奏したものをどこかから引っ張って来て、その上に誰かが作ったビートをくっつけてループさせれば完成。それでその曲を作った人が「ビートメイカーです」って名乗れてしまう状況には疑問を感じるんです。本来はサンプリングもすごく技術が必要なんですよ。
Sweet WilliamくんやEVISBEATSさんがやってる音楽とは全く別のはずなのに、それが今は一緒くたに語られてしまっているように思います。そういった風潮に流されてこのEPも再生されちゃうんだったら、さてどうしよう?っていう。そういう意味では実験的な作品でもありました。
- それはメディアの末席にいる人間としても恐ろしい話です。代理店的な仕事として、そういったフェイクに加担していないだろうか?と考えることは多いです。そういう意味では、MIDNIGHT RADIOでSUKISHAさんが仰っていた「頑張っている人に向けたメッセージ」には私も励まされました。
それは良かった(笑)。僕もお金がない頃は悪い流れに負けそうになることはありましたけど、他人と比べて自分が優れているところは分かっていたんです。楽器をやってても周りの人たちと比べて上達するスピードが速かったりとか、作曲に関しても秀でているほうだと自負してました。それが評価されなかったのはやはりキツかったですが、今は自分のアプローチが間違っていたと思います。フェイクな人たちにしても、上手く行ってない場合は自分のことを正当に評価できていない可能性がある。僕も悔しい気持ちとか執着心でここまで続けてきた人間なので、手段は色々考えましたね。
- SUKISHAさんがインディ―アーティストのままここまで来られたことは、多くのインディーズにとっても明るい材料だと思います。番組の初回を担当したermhoiさんとも似たような話をしました。
僕としては長続きさせるために海外との繋がりを増やしていきたいですね。日本国内のマーケットだけでやるのは限界があると思うので、今後は世界にも視野を広げていきたいです。どうやら僕の曲がペルーと香港で聴かれてるらしいので、純粋な興味もあるんですよ。海外のiTunesストアで僕の曲が1位になるって、少し前までは考えられなかったですからね。今の生活がずっと続けばそりゃ嬉しいですけど、手放しで喜べる状況ではないと思ってますから、あらゆる可能性を模索し続けたいです。