『告白』
校門前の桜の木の下で、写真を撮る女子たち。
最後の別れを惜しみ、涙を流す子もいた。
みんな、卒業証書をもって、ポーズをとる。
その中で、ひときわ輝いている女の子がいた。
宇宙のように黒い髪は、
光の反射によって天の川の美しささえ表現していた。
陶器のような肌は、神様の職人としての気概を感じる。
僕は彼女を、グラウンドの方からずっと見ていた。
横の友達が泣いて話しかけてくるが、どうせ同じ高校に通う。
男同士でそんなに泣くことないだろ。
僕は無視した。
彼女を二度と見れないことの方がずっとつらかった。
3年間、同じクラスだったのに、話したことは一度もないけど。
僕は、この卒業式でしようと思っていたことを、また決意する。
彼女に告白をする。
クラスメイトに聞かれたら、絶対無理だといわれる。
彼女は僕にとって、高嶺の花だ。
でも、今日で会うのが最後、これを逃したら一生後悔する。
気持ちを伝えたいんだ。
振られてもいい、告白さえできれば。
何が起きようが、絶対に告白してやる!
僕は友達と別れを告げ、校門へと向かった。
よし、行くぞ。
だが、あの女子の群れに飛び込むのは勇気がいる。
徐々に近づく。
校門まで残り10メートル。
女子グループ特有の、男子が近づいた時の緊張感が発生。
男が勝手に感じているだけなのかも。
あと9メートル。
鉄棒が設置されているところを抜ければ彼女にたどり着く。
あと8メートル。
女子たちの視線が痛くなってきた。
学年1の人気を誇る彼女がいるグループ。
彼女を囲い、守りの構えに入る。
結束は固い。
先ほどから感じている緊張感に間違いはなかった。
7メートル。
ダメだ。
あの守りを突破できるビジョンが見えない。
かいくぐり話しかけることなど不可能だ。
6メートル。
っていうか逆上がりしたくなってきた。うん。
なんか、鉄棒したいっていうか。うん。
5メートル。
僕は逆上がりを初めた。
これは逃げじゃない。チャンスを待つのだ。
幸い、ほかの卒業生たちもいる。
不自然ではない。
女子たちは一向にフォーメーションを崩さない。
解散を待つか。
しかし、徐々に卒業生たちも帰り始めている。
逆上がりする握力もなくなってきた。
頭と体をぐるぐるさせていると、
フォーメーション先頭の女子が何やら騒ぎ始めた。
それに気づいて、後ろの女子たちもざわめく。
僕は戦慄した。
女子一番人気が彼女なら、男子一番人気はあいつだ。
池原一真。
あいつが僕がさっき歩いていたルートを、
颯爽と歩き、鉄棒など見向きもせず、
まっすぐに彼女のもとにあるいていく。
まさか。
嫌な予感は的中した。
女子たちの守りの壁は、
良い顔面と高い身長の前に、
あっけなく散り散りとばらけ、
今度は学年一の美男美女を囲む花道になった。
そして、池原は、彼女に告白した。
想定外だ。
やつも彼女を狙っていたのか。
彼女は少し驚いていたが、
ここじゃみんなに聞かれるからと言って、
池原と二人で静かに体育館裏に向かっていった。
僕は、さっき別れた友達に会う振りをして、
こっそりついていった。
友達は、僕が戻ってきたのを見て、
まためちゃくちゃに泣いて、抱き着いてきた。
今はそんな場合じゃないって。
なんとなく会話してすぐ離れ、
こっそり体育館裏に向かった。
木の裏から様子をみる。
そこには、謝っている彼女と、
まさか振られるとは思っていなかった池原が、
立ちすくんでいた。
彼女は罪悪感から泣いていた。
池原は笑顔で彼女を励まし、
ハンカチを渡してその場を去った。
あの池原が振られるとは。
これは間違いない。
他に好きな男がいるパターンだ。
チャンスはある。
それに彼女は今、一人きりだ。
行くなら今しかない。
草むらから一斉に音がした。
周囲を見渡すと、僕以外にも
多くの男子学生がのぞき見していることがわかった。
これはまずい。。。
走り出したが、間に合わなかった。
体育館裏に、
彼女をめがけて一斉に告白の列ができた。
僕はその最後尾になってしまった。
彼女に向かって恋の矢がどんどん放たれていく。
しかし、どれも刺さることはなかった。
彼女は罪悪感からか、さらに泣いていた。
構わず男たちは順番に告白し続ける。
恋の成就のためならば、誰がどうなろうとかまわない。
振られた男たちの屍を踏み越え進んでいく。
続々と振られ続ける男たち。
彼女は泣き崩れてぐしゃぐしゃだ。
僕は、他の男と同じように進んでいく。
彼女がいない男たちがほぼ並びそして振られた。
残っているのはあと20人ほどだ。
もしかしたら、俺か?
俺のことが好きなのか?
いやそうだろ。
間違いない。
いま並んでいるやつで、
同じクラスなのは僕だけだ。
だから、僕だ。彼女は僕のことが好きだ。
あと10人ほどだ。
また振られた。
彼女は泣いた。
あと9人。
すぐに振られらた。
彼女はもっと泣いた。
あと8人。
彼女は涙で言葉も出なくなった。
男が返事を迫る。
強引に彼女を引っ張った。
それを止める男が来た。
僕は池原以上の脅威を感じた。
この男の存在を忘れたいたんだ。
彼女の昔からの幼馴染で、
隣の家に住む山田優だ。
彼女の顔色が変わる。
救いのヒーローを見たときの顔だ。
倒れた男たちをよけて、
彼女と優は学校を出ていった。
まだ僕が告白してないのに。
まあ、どうせ彼女はあいつが好きなんだろうけど。
もういいや。
告白しようと決意したのが間違いだった。
僕も帰ることにした。
グラウンドまで戻ると、まだ友達がいた。
僕のことを待っていたらしい。
恋愛よりも友情だ。
僕は誤解していた。女がなんだ。
友達と熱い抱擁を交わし、
別れを惜しみ、高校でも同じクラスになろうな、
といった会話をした。
帰り道は別々なので、校門で別れて帰った。
帰り道、公園に彼女と優がいた。
友情の方がいいと言っておきながら、
結局気になってしまう。
僕はまたのぞき見をした。
優 「さっきは大変だったな」
彼女「優がこなかったら、
私、泣きすぎて死んじゃうところだった」
優 「お前は優しいから。
男を振ろうが、堂々としてろよ」
優がハンカチを差し出す。
彼女「優の方がよっぽど優しいよ。」
優 「あのさ、お前って、誰とも付き合う気ないの?」
彼女「そういうわけじゃないけど。
好きな人がいるんだ。」
優 「学校のやつ?」
彼女「そう。」
予想は当たっていたらしい。
優 「あの、ずっと言おうと思ってたんだけど、
俺、お前のことが好きだっ!」
幸せになるがいい。
告白せずに失恋することになったが、
こんな王道展開なら気に病むこともない。
彼女「うう、ごめんなさい。」
ええーーー!!
優 「ええーーーー!」
あいつじゃないの?好きな人って。
優 「俺じゃないの?」
彼女「うん。」
優 「あ、そっか。じゃあ。」
優はとぼとぼと帰っていった。
僕もあっけにとられていた。
気づくと彼女が目の前にいた。
彼女「話があるんだけど・・・」
僕 「うん」
彼女「私、君の友達が好きなんだ」
僕 「うん」
彼女「驚かないんだ」
僕 「うん」
彼女「彼のどこが好きだと思う?」
僕 「うん」
彼女「恋愛に興味が無くて、
それよりも友情をだいじにするところ」
僕 「はー。」
彼女「じゃあ、彼に伝えておいてくれる?」
僕は友達に彼女が君のことが好きだと伝えた。
興味がないと彼は言った。
そのことを彼女に言った。
彼女「はぁ。そういうところが好き。」
この人は恋愛漫画のヒロインには向いてないなぁ。
~おわり~