『社長社員・竹田』


偉そうな中年の男がいた。
名前は竹田まさき。
見た目は恰幅があり、堂々としている。
そんな竹田が出社してきた。

竹田「はい、おはようおはよう。」

社員「おはようございます。竹田さん。」

竹田「おいす〜。」

社員「今日もよろしくお願いします。」

竹田「頑張っちゃって〜。」

社員「じゃあ着替えてください。」

竹田「もう言われなくても着るよ〜。」

竹田は、持っていたセカンドバックから、
[レストラン バッカス]のロゴが入ったエプロンを
出して、着替えた。

竹田「はい、じゃあ今日も頑張っちゃおうか。」

社員「竹田さんは本日初めての出勤ということで、
   こちらの名札をどうぞ。」

社員は竹田の横に初心者マークがついた名札を渡す

竹田「サンキューねぇ。雇ってくれて。
   うちの会社が潰れちゃったからさぁ。」

社員「同情します。
   けど、話し方は直していきましょうね。」

竹田「メンゴ、メンゴ。
   社長だった頃の喋りが抜けなくてさぁ。」

竹田は元社長である。
広告代理店を立ち上げ、
イケイケの社長として業界を牽引していたが、
不景気に重ね、
脱税や労働法基準を守らない雇用制度などなど、数々の問題から会社が潰れてしまっていた。

竹田も当然、その件に関与しているため、
世間からの圧力が厳しく、
会社の再復興も不可能と判断し、
こうしてアルバイトとして働き始めたのである。

社員「じゃあ最初に、ゴミ出しお願いします。」

竹田「オッケー。おい、誰か、ゴミ出しといて〜」

社員「あなたがやるんですよ!」

竹田「え!俺が?」

社員「そう、もう社長じゃないんだから。」

竹田「あ、そうか。指示される側か。」

社員「嫌な言い方しますね。」

竹田「オッケーオッケー。任しといてぇ。」

社員「ふぅ。大丈夫かなぁ。」

数分後、竹田が戻ってきた。

社員「場所分かりましたか?
   結構分かりずらいとこにあるんですよ。」

竹田「オッケー。オッケー。バッチリよぉ。」

社員「じゃあ次は、注文の取り方教えます。」

竹田「まって、いまリスケするから。」

社員「しなくていいです。
   シフトの時間決まってるので。」

竹田「あー、はいはい。」

社員「お客様がベルを押したら、
   あそこの機械にテーブルナンバーが出ます。
   そのテーブルで注文をとります。」

竹田「うんうん、続けて。」

社員「お客様の注文を腰にあるその紙にメモして、
   終わったらその注文を繰り返します。」

竹田「はいはい。なるほど〜。」

社員「教わってる人の態度じゃないんだよな」

竹田「おっけ。
   じゃあ結論からいうと、」

社員「結論?」

竹田「アイパッドを導入して、
  セルフで注文できるようにしちゃいましょう」

社員「しちゃいません。」

竹田「予算は俺が引っ張るから、」

社員「引っ張れませんよバイトのあなたには。」

竹田「あ、俺引っ張れない側なのか。」

社員「会話はずっと引っ張ってますけどね。」

竹田「がはははははは。上手いこと言うねえ。」

社員「笑い方も社長だなぁ。」

ベルがなる。

竹田「あ、15番なった。
   だれかー、注文とってきてー。」

社員「あなたが行くんですよ!」

竹田「あ、そうか。」

竹田は15番テーブルに向かった。

社員「まったく。大丈夫かなぁ。」

竹田「注文とってきたよ。」

社員「じゃあ厨房に伝えてください。」

竹田「おっけおっけ。
   はい、ハンバーグ定食ひとつ!
   ステーキ定食ひとつでーーす!」

社員「やればできるじゃないですか!」

竹田「あとサービスで、
   ワイン開けてあげてー!」

社員「いやダメダメ!」

竹田「わかってるよぉ。
   社長ジョークだよ。」

社員「ここには作り笑いしてくれる人は、
   もういないんですよ。」

竹田「....ちょっと〜、手厳しいね〜。」

社員「ほんとは、
   上からはあなたのことは採用しないように、
   言われたんです。
   でも、それはあまりにも可哀想だと思って、
   僕が頼み込んで特別に許可を貰ったんです」

竹田「そうだったんだ。
   ほんと、ありがとね。」

社員「当たり前でしょ。
   実の親父が、無職なんだから。
   そりゃ助けるでしょ。」

竹田「ごめんな。まさふみ。」

社員「ほら、僕は社員なんだから。
   敬語を使ってください。」

竹田「はい。」

社員「じゃあまた1から頑張りましょう。」

竹田「ええ〜。」

社員「はい、お客さん来ました。
   水運んで。」

竹田「はい誰か〜。」

社員「だからあなたの仕事!」

社長社員竹田は、
いつの日か普通に喋れる日がくるのか。

〜終わり〜

あとがき

社長になったことがないので、
社長あるあるが出てきませんでした。
これも要加筆作品に加えたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!