2020.06.07 【大工調べの啖呵(たんか)だけが覚えたいのだが・・・】
じゃあ大家さん、あっしがこれほどお願え申しても、どうあっても道具箱
をわたしてくれねえっておっしゃるんですかい。?..........
どうもこうもありゃしねえ。おまえさんのほうでわたさねえというなら、
たってもらっていこうとはいわねえ。道具なんざあ、集めりゃあいくらで
もあるんだ。大家さんとかなんとかいってやりゃあつけあがりゃあがって、
なにをぬかしやがるんだ、この丸太ん棒め!てめえなんざあ丸太ん棒に
ちげえねえじゃあねえか。血も涙もねえのっぺらぼうな野郎だから丸太ん
棒てんだ。てめえなんざ人間の皮を着た畜生だ.。呆助、ちんけいとう、
株っかじり、芋っぽりめ!てめえっちにあたまをさげるような
おあにいさんとおあにいさんのできがすこうしばかりちがうんだ。
なにぬかしゃがんでえ。大きなつらするない。大家さんとか旦那とか
おだてりゃあつけのぼせやがって、ごたくがすぎらい。どこの町内の
おかげで大家とか町役とか膏薬とかいわれるようになったんでえ、ばかっ
、むかしのことを知らねえとおもってやがるか?このあんにゃもんにゃ!
てめえの氏素姓を並べて聞かしてやるからな。びっくりして座り小便して
ばかになるな。やい、よく聞けよ。どこの馬の骨だか、牛の骨だかわから
ねえ野郎が、この町内にころがりこんできやがって....
そのときのてめえのざまはわすれやしめえ。寒空にむかって洗いざらし
のゆかた一枚でもってがたがたふるえてやがったろう?さいわいと町内
にはお慈悲深えかたがたそろっておいでにならあ。あっちの用を聞いたり
、こっちの使いをしたりしてまごまごしてやがって、冷や飯の残りをひと口
もらって、細く短く命をつないだことをわすれやしめえ。てめえの運のむいた
のはなあ、ここの六兵衛さんが死んだからだそこにいるばばあは、
六兵衛のかかあじゃねえか。その時分にゃあ、ぶくぶくふとって黒油
なんぞつけて、おつに気取りやあがっていやらしいばばあだ。
ばばあがひとりでもってさびしいばかりじゃあねえや。人手がたりなくて
こまっているところへつけこみやがって、「おかみさん、水くみましょう。
いもをあらいましょう薪を割りましょう」と、てめえ、ずるずるべったり、
そのばばあとくっついて、入夫とへえりこみゃあがったろう?その時分の
ことをよく知ってるんだい。こっちゃあ。
六兵衛はなあ、町内でも評判の焼きいも屋だ。川越の本場のを厚く
切って安く売るから、みろい、子供は正直だい。ほかのいも屋を五軒も
六軒も通りこして遠くから買いに来たもんだ。
それをてめえの代になってからはなんてえざまだい。
そんな気のきいたものを売ったことがあるか?場ちげえのいもを売りや
がって、たきつけを惜しみやがるから、なま焼けのガリガリのいもで
もってな、そのいもを買って食って、腹をくだして死んだやつが何人
いるかわからねえんだ。この人殺し!
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