【インタビュー】No.3 久世直樹
座・高円寺劇場創造アカデミー出身のメンバーを中心として活動する、CTAラボによる演劇創作プロジェクト。2023年度は劇作家・演出家の松田正隆を迎え、小津安二郎の映画『東京暮色』(1957)をモチーフに東京の現在を描いた新作『東京トワイライト ー強盗団と新しい家ー』を上演します。
本プロジェクトに参加するアーティストへのインタビューを複数回に分けて掲載します。第三回目は、俳優の久世直樹(くせ・なおき)さんです。
これまでの活動(表現との関わりや経歴)について
久世:高校卒業後は大阪の専門学校に通っていました。元々写真が好きで空間設計や人の配置に興味があり、学校に通いながら維新派の作品に参加していました。維新派って、美術を自分たちで作るだけでなく、野外劇場の建て込みから撤収まで、セクションを越えて全員でやるっていうのが面白いなと思って。ちょうど蜷川幸雄さんがシェイクスピアを男性キャストだけで上演するシリーズをやってた時期でもあって、蜷川作品に出演していた俳優が劇団を作るっていうのを聞いて、応募したら入りなよって言われました。21歳ぐらいですかね。それからしばらく、大阪と東京を往復しながら蜷川さんの稽古場に出入りしていました。劇団の同期は蜷川さんの舞台に出れてたんですけど、僕は落ちこぼれでした。
ある日三好十郎の作品を上演する舞台を観に行った時に、自分は演劇の環境とか空間設計の部分を観ているなと思いました。それで「写真と演劇を接続した空間設計」みたいなことを考えてみたいと思い、劇場創造アカデミーに入りました。それまでは演劇の専門教育を受けたこともなければ、サークルに入っていたわけでもなく「モグリ」っていう感じで演劇と関わってましたね。
ーそうだったんですね。モグリと言いながらも、かなり本格的に先行世代の仕事に触れてこられている感じがします。写真は専門学校で学んでいたんですか?
久世:いえ、写真スタジオのバイトをやっていて、お客さんの注文に応じて人物写真を撮っていました。大体撮り方や構図も決まっているので、クリエイティブみたいなこととはかけ離れてましたけど。なので、それとは別に趣味で撮ったりしてたんですが、どちらかというと写真評論を読んだりする方が好きでしたね。そうしているとだんだん「自分に撮れるものはないな」と思って写真は諦めました。
ーなるほど。影響を受けた写真家はいますか?
久世:一番はアンリ・カルティエ=ブレッソンというフランスの写真家です。「決定的瞬間」っていう言葉が今普通に使われてますけど、小型カメラのライカを持って人に気付かれないようにスナップを撮るということをやった人です。撮られる瞬間って、どうしても顔を作りこんじゃいますよね。ブレッソンは作為の出ないところを狙って何時間もその場所に待機して写真を撮ったような人です。あと、写真家とは違うのかもしれないですけど、森村泰昌さんの作品も好きでしたね。あとはドイツの写真家・トーマス・ルフとか、アンドレアス・グルスキーとか。彼らの表現は演劇にも共通する部分があるんじゃないかと自分は思っていて、そこから演劇に接続していった気がします。
CTAラボに参加しようと思った理由
アカデミーを修了してから、関田育子とか三枚組絵シリーズといった、立教大学で松田正隆さんから学んだアーティストの作品に参加していたんです。言ってみれば、マレビトの会の方法論を自分たちなりに解釈して作品を作っている人たち。そういう人たちと一緒にやっていく中で、彼らのルーツである松田さんの演出に触れてみたいなと思いました。
今回の作品について
久世:松田さんの演出って、上半身で身振りをしていても、下半身は硬直している状態が結構続くんです。映像でいうと、撮られているバストアップだけ動いているような状態。
下半身の状態を維持しつつも身振りを遂行しないといけないので、どうしても足の震えが起きたりします。例えば新聞を読むとか、パソコンで文字を打つといった身振り。共演者の大木さんが鏡を覗くシーンがあるんですけど、関田育子の場合は鏡を見てる人とその後ろに人がいて、鏡見えないからちょっとどいてみたいなことで「鏡が見えない」という動きから舞台上での運動行為(例えば、反復横跳びのような)に移行していく。松田さんとは運動の流れ方がちょっと違うなと思います。松田さんの場合は「場所」が強固にあるので、俳優にとって身振りの根拠が掴みやすいかもしれません。最初に「コンビニ」という場所の設定があって、缶とペットボトルどっちにしようかと考える。どちらを選んだかによって、持っている手の形や飲み方が変わってくる、みたいな。先に空間が設計されているから、その中で俳優が自由に身振りを選ぶことができるのかなと思います。一方関田育子は、それよりももっと「何を飲んでるか」っていうことが大事な気がします。酒を飲んでると酔っ払ってきて、どんどん体が動いちゃうみたいな。「飲む」という行為から別の動きに移行していくために「飲む」っていうきっかけがあるという感じ。うまく言葉にできないんですけど、松田さんの稽古場では「飲む」っていう身振りを、足が床と接触した状態でしっかりやるみたいな感じなんです。あ、でも僕が勝手にやってるだけなんで、本来はそういう意図じゃないかもしれないですけどね。
ー俳優の演技に関して、どんな指示がありますか?
久世:例えばこのセリフ大きく言える?とかこのセリフはこういう風に言って、みたいな空間における発話の仕方に関しては指示があったりするんですけど、特に言われないことの方が多いかも。俳優がどう演技するかよりも「空間と俳優がどこにいて、どういう空間との関わり方をするか」っていうことを見ているんじゃないかと思います。
東京について
僕はラーメンが好きなんですけど、ラーメン二郎を食べるためにいろんなところに行きます。例えば三鷹とか目黒とか。すず鬼っていう、今結構勢いがあるラーメン屋さんが三鷹SCOOLの近くにあって、そこによく行きますね。今住んでる場所は新高円寺なんですけど、新高円寺は逆にあんまり見つけられていないんですよ。荻窪のラーメン二郎に、閉店キリギリの時間に行くっていうのをよくやってます。
聞き手:與田千菜美