【インタビュー】No.6 河原舞
座・高円寺劇場創造アカデミー出身のメンバーを中心として活動する、CTAラボによる演劇創作プロジェクト。2023年度は劇作家・演出家の松田正隆を迎え、小津安二郎の映画『東京暮色』(1957)をモチーフに東京の現在を描いた新作『東京トワイライト ー強盗団と新しい家ー』を上演します。
本プロジェクトに参加するアーティストへのインタビューを複数回に分けて掲載します。第6回目は、俳優の河原舞(かわはら・まい)さんです。
これまでの活動(表現との関わりや経歴)について
京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)で演劇を学びました。大学ではスタニスラフスキー・システムという、どちらかというと新劇的な演技中心の勉強をしていたので、もっと体系的に演劇を学んでみたいと思い、上京しました。
これまではきちんと順序立てて「役を作る」ということをやってきたけど、アカデミーの場合は、演技のために感情を作らないという真逆のアプローチで、最初は戸惑いました。私は雰囲気のあるセリフの喋り方をしてしまう癖があって、例えばギリシャ悲劇をやるときにはギリシャ悲劇的なセリフの言い方とか発声になっちゃう。そうじゃなくて、感情を乗せずにセリフをそのまま相手に伝える。舞台上にいる相手は、役を演じている俳優であると同時に「言葉を伝える関係性」だという考え方はおもしろいなと思いました。
修了後はゲッコーパレードでの活動を始めとしたいくつかの舞台に出演し、現在はフリーで活動しています。最近は、観客が「自分たちと同じだ」と思えるような、より日常と非日常がシームレスに繋がっている作品に興味があります。
CTAラボに参加しようと思った理由
松田さんの過去作品をいくつか観てきた中で、地元の言葉を大事にする劇作家という印象があったのですが、マレビトの会で実践されているような一見分かりやすい構造ではない作品を観て、どのように作られているのか興味を持ちました。
また、劇場創造アカデミーでは、入学してすぐに授業の一環で「高円寺びっくり大道芸」に参加するのですが、そこで出会った地域の方々が一体になって自分たちの街を盛り上げようとしている姿を見てすごいなと感じました。その中で座・高円寺も「地域の劇場」として街づくりの一端を担っているんです。そんな多くのことを学ばせてもらった場所で新しい試みが始まろうとしている時に、自分自身が修了後に見つけたものやできるようになったことを、その場所に還元したいと思い参加しました。
今回の作品について
稽古では参考映画を観るなどして松田さんがこの作品で作りたいイメージや雰囲気を共有しました。最初にもらった台本は9ページしかなく、ほぼセリフが書かれていなかったのですが、やってみると1時間になった。早いような遅いような、よく分からなくなる不思議な感覚。大きな声で話すことが一切なく、あまり抑揚もつけない。稽古場は緩やかで不思議な時間が流れています。
舞台上で行われるのは、コーヒーを入れるとか、ご飯を食べるといった日常の動作がほとんどです。その動作を完全に表現するのではなく、何かを飲んでいるんだなとか、パソコンを使っているんだなっていうのが分かるくらいの「ゆるい身振り」をやっている感じです。あくまで「ゆるい身振り」を見せ、そこで何が起こっているかの判断は観客に委ねられるみたいなところがすごく面白いんじゃないかと思います。できるだけたくさんの人に見てもらいたいです。
東京について
上京して最初に住んだのは西武線沿いの新井薬師駅です。東京は渋谷のスクランブル交差点や若者が集まる最先端の場所、という派手なイメージがあったのですが、新井薬師は普通に住宅街が広がっていて、すごく生活感がある。当たり前だけど、そういうものなんだなって思いました。古着が好きなので下北沢にもよく行きます。目的がなくても適当に歩ける街。どこかに行けば何かがあるみたいな。そういう人が集まる場所が多いのが東京なのかも知れない。
聞き手:與田千菜美