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きっとやがては萎れるダリア

 誰にも邪魔をされたくない。そんな時を狙いすますかのように、決まって真っ赤な長髪のダリアは現れる。

「私ってかわいいでしょ」
 こちらの返事を聞いてもいないのに、すでにダリアはにんまりしているだろう。いつものことだ。

「ああ、ダリアはかわいいよ」
「じゃあ私ってどのくらいかわいい?」
「どのくらい、とは言い表せないほどかわいいよ」
「やったあ」

 俺のぞんざいな回答で彼女は喜んだ。満足しなかった日は、その場で褒め言葉を何種類も考えなくてはいけない。俺はようやくゴーグルを取り外す。透き通る彼女の姿を見た。

「髪型をまた変えたもんな……かわいいやつに」
「いいでしょ」

 ダリアは俺が想像したとおりに目を細めていた。座った俺を斜めから見下ろしているのは、彼女の背が高いのではなく、地面からいくらか浮いているからだ。本来なら足の踏み場も心許ないこの部屋は、宿主である俺以外寄せつけないはずなのに。

「この部屋、また汚くなっちゃったよ。髪が床についたら嫌だから編んできたよ」
 汚れないだろ、おまえはゴミにも干渉できない幽霊なんだから。そのように言ってやりたかったが、面倒そうなのでやめた。

 俺にとってダリアは、タチの悪い冗談だけで構成された幻影だった。都合のいい幻影ならば、今の世では誰もが好きなだけ見ているのに。ヴァーチャルリアリティは普遍化し、誰もが好きな外見で好きな箱庭に没頭する。その中で俺ばかりが、ナンセンスで旧時代的で非科学的存在である幽霊につきまとわれているのだ。少年時代から十年以上も!

 非現実存在のダリアと向き合う時、皮肉にも俺は現実の環境とも向き合わざるを得ない。たしかにゴミをまとめるところまでは行ったが、出し忘れているままだ……。

 俺はゴーグルを被りなおそうとしたが、ダリアがまだ話しかける。
「相談に乗って欲しいんだけど」
「なんだね」
「私もねえ、そろそろこの世界からお暇したいよねえ」

【続く】


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