姉の結婚式に行ってきた
姉とは、小学校に上がって以降喧嘩した記憶がない。というと、仲良し姉弟のように思えるが、喧嘩するほどでもなかった、というのが正しい。
姉とは4つ離れている。そういう訳で、俺が中学に上がる頃には姉は高校にいたし、俺が大学に入る頃には姉は社会人になっていた。
姉は地元の中学ではなく、少し離れたところを受験して、電車で中学に行くようになった。俺が高校生になる頃、姉は大学のために一人暮らしを始めた。姉が社会人になって実家に帰ってきた頃、俺は大学のために一人暮らしを始めた。たまに実家に帰ってきても、看護師で夜勤や日勤や休みが入り乱れていて、いるのかいないのかすらよく分からなかった。
そんな姉が、彼氏を紹介したいから一緒にご飯を食べに行こうと言ってきた。なんとなくステーキか蕎麦が浮かんできて、姉に聞いたら蕎麦になった。当日、ほとんど初めて会う彼氏に緊張して、待ち合わせ前に煙草を2本吸った。煙草臭いとすぐバレたので、一昨日友達と雀荘に行ってきたと嘘をついた。
蕎麦屋に着いて、それぞれ注文をした。俺と彼氏は蕎麦とかつ丼のセットを頼んだ。姉は天ざるそばを頼んだ。
注文が来るなり、姉は天ぷらの塊をひっくり返してこう言った。
「きのこ入ってないよね?」
と。
姉よ。出来のいい姉よ。優しくて人付き合いの良い、努力家の姉よ。10年間ほとんど一緒に過ごしていなかったが変わっていないようで安心した。きのこが食べられないところだけ、出来の悪い弟と同じ姉よ。
蕎麦を食べながら、2人の話を聞く。
姉よ。彼氏の趣味は変じゃないか?御朱印集めと美術館巡りと、1人向きの趣味ばかり極めている気がする。心霊スポット巡りも好きだと聞くと、いよいよ怪しい気がするぞ。
彼氏よ。姉は好き嫌いが多い。きのこと海鮮が食べられない。旅行先で食べられるものがかなり少ない。自分からハンバーグ屋さんに行きたいと言っておいて、ミートソースパスタを食べる妙なこだわりがあったりする。やっぱり1人で出かける方が楽だと思う日もあるんじゃないか。
今日、結婚式に行って、2人の写真を見た。旅行先で、なにやら良いものを食べている写真がたくさんあった。上手くやれているなら何よりだと思った。
姉よ。出来の悪い弟ですまない。メッセージカードには気の利いた言葉を書けなかったし、知らない人が苦手で、無愛想な顔ばかりしていた。照明が落ちるまで涙も流せなかった。
なにやら結婚について親と揉めた時、俺の言葉で解決したと姉は言っていた。俺は結局、解決した場所にはいなかったので、なにがどう役に立ったのか分からないが、こんな弟でも力になれたのならよかった。
姉よ。どうかずっと、きのこが嫌いなまま、幸せになってくれ。