善意の男
ランチ帰りにコーヒーを買いにセブンイレブンに立ち寄ったある日のこと。
午後の始業前にちょっとしたものを買おうとしている他のお客さんもおり、レジ待ちの列ができていました。
そのセブンイレブンではレジカウンターの端から直線上に1列に並び、先頭の人が空いたレジに順次進む方式で、
私の前には刈り上げヘアにキャップを被りTシャツ短パンで少し髭を生やしたちょいワルダンディカジュアル風の男性が立っていました。
彼がようやくレジ待ち列の先頭になった時のことです。
スーツを着た男性が一人、レジ待ち先頭から数歩先の一番手前にあるレジでアイスコーヒーを買おうとしていました。
「アイスコーヒーをください。」
スーツの男性は店員に言いました。
すると
「アイスコーヒーはそちらの冷蔵庫からお取りください。」
と店員に言われてしまいました。
その冷蔵庫は上から左右にスライドする小さいタイプのもので、レジ待ちをしていたちょいワルダンディの右真横にありました。
レジ前からはなれることを少し躊躇したのか、冷蔵庫にアイスコーヒーを取りに行くかどうか迷っていたスーツの男性に対し、
なんとそのちょいワルダンディは1歩踏み込み、自分のもっていたアイスコーヒーを差し出したのです。
とっさに、しかも両手で。
「いや、Lサイズが欲しくて、、、」
差し出されたアイスコーヒーはMサイズでした。
スーツの男性は仕方なく冷蔵庫の方に歩み寄り自分でアイスコーヒーを取りに行こうと動き出そうとしたところ、
ちょいワルダンディは冷蔵庫の扉を開けLサイズのアイスコーヒーを探し始めたではないですか。
しかしLサイズのアイスコーヒーはちょいワルダンディが手を入れた方からは取りにくい位置に、
しかも暑い日だったのでもう在庫が少ないらしくかなり下の方にあるようで、取るのに難儀していました。
「あ、大丈夫です、、、」
見知らぬ人が自分のアイスコーヒーのためにそこまでしてもらうのを眺めているだけなのは悪いと思ったのか、
なかなかアイスコーヒーが出てこないことに苛ついたのか、
スーツの男性はようやく冷蔵庫に歩み寄り、Lサイズのアイスコーヒーを取り出し購入するに至りました。
ちょいワルダンディの善意からの行動は全て無駄に終わってしまいました。
(ナイスファイッ!)
私は心の中でちょいワルダンディの背中にエールを送っていました。
持っていた自分のアイスコーヒーを迷うことなく差し出すなんてことは、
私には到底できないことなのでとても印象に残りました。
私の心が熱く(HOT)なったのはあの日の暑さのせいだけではなかったはずです。