【読書感想文】人の強さとは弱さを認めることー障害を言い訳にしない恋人たち
1.『レインツリーの国』(有川浩)あらすじ
きっかけは1冊の本。
かつて読んだ、忘れられない小説の感想を検索した伸行は、「レインツリーの国」というブログにたどり着く。
管理人は「ひとみ」。
思わず送ったメールに返事があり、ふたりの交流が始まった。
心の通ったやりとりを重ねるうち、伸行はどうしてもひとみに会いたいと思うようになっていく。
しかし、彼女にはどうしても会えない理由があったー。
不器用で真っ直ぐなふたりの、心あたたまる珠玉の恋愛小説。
(Amazonより)
2.「あなたにはわからない」というエゴ
障害は恥じゃない、隠さなくてもいいと身内にも同障者や健常者の方にもたくさん言われたことがあります。
それでもやっぱり私は、恥じなくていいはずの障害で恥ずかしい思いや嫌な思いをいっぱいしたし、私は伸さんの悪意を疑ってるんじゃなくて、世の中を信じることが恐いんです。
伸さんは違うって信じることがもう恐いんです。
主人公のひとみは聴覚障害のある女性。
彼女には、上記の引用の通り「嫌な思いをしたり、嫌われたりするくらいなら最初から誰とも近付きたくない」という強固な壁があるのだ。
ひとみに惹かれる伸は好青年で頭もよく、親しみのある関西弁で喋りもそつない。
おまけに壮絶な過去を抱えながらも、それを乗り越えたからこそ持てる優しさや強さがある。
当然の如く女の子にもモテるのだけれど、どうやらただ可愛いだけの女の子には興味がない、ちょっと曲者。
歩み寄ろうとする伸と、突き放そうとするひとみ。
百戦錬磨の彼も距離の縮め方に困り、(内心小馬鹿にしていた)同僚のキャピキャピ女子に相談してみる。
すると彼女が核心を突く。
でもね、それって試してるんだって。
そんなイヤミな言い方してもその人が自分のこと嫌いにならないかどうか。
で、喧嘩しても嫌われないかどうか確かめて安心したいんだってさ。
だから好きな人ほど突っかかったり、「どうせあなたも分かってくれない」みたいなこと言うんだって。
甘え方すごくヘタだね、彼女。
3.ひとみは私と同じ”普通の女の子”だ
そう、これ!これだ!と私はひどく共感する。
唐突な自分語りで恐縮だが、私も「猫っぽいかと思ったら犬っぽくて鬱陶しい」だの「もっと喋る子だと思ったら大人しくてつまらない」だの、勝手に理想像を作られては勝手に"ギャップ萎え"されてきた。
だから客観的に見ればマイナスになるような種を蒔き散らし、ATフィールド全開で予防線を張ってしまう。
そして嫌われたあと「やっぱりね」と言い訳の材料にしたいのだ。
でもそれって回りくどいし、相手にも失礼だ。
古典的な例を出すと「ほっといてよ!」が「構って!」の意を指す、いわば謎の翻訳機能でワガママを言っているだけなのだ。
嫌われないようにかわいげのある女になればいいのに。
ごく当たり前のツッコミが頭の中で入る。
それに逆ギレるのもやっぱり自分だ。
仕方ないじゃない、私ハンデがあって性格もめんどくさくて、普通の女の子みたいにかわいくいられないんだもの。
実際、ひとみはこうやって言い訳をする。
「君の全部を受け入れたい」と言ってくれている伸がいるのに、いや、だからこそここで裏切られたら致命傷だという強い被害者意識。
彼女がこれまで、
どれほどの悪意に晒されてきたか。
そしてその度に、
いかに深い傷跡を植え付けられてきたか。
ここまで繊細に訴えかけてこられたら、私はもう大号泣。
「私もこういう経験したことあるな」
4.「君を受け入れたいんや。君が好きや」伸の優しさは強さだ
しかし、ここまで卑屈になられると流石に伸にも共感してくる🤣
つべこべ言わずに愛させろ!
そんな簡単に嫌いになるようなら、こんなにアプローチしないってば!
ひとみちゃん、あなたは最高に魅力的だよ!
めっちゃ可愛いよ!
もはや私がギュってしてあげたい!(?)
そして何度突き放されても歩み寄り続ける伸は、次第にひとみにこんな感情を抱く。
彼女は――彼女たちは、耳が不自由な分だけ、言葉をとても大事にしているのだ。
第一言語として自分たちに遺された言葉を。
その言葉を大事に使って、真摯に理屈を組み立てる。
だから伸行はひとみの言葉に魅かれるのだ。
あれほど真摯に使われる言葉はまたとないからだ。
自分と似ていて少し違う心地良さ――それは、ひとみが言葉の限りある愛おしさを知っているからだ。
コミュニケーションにハンデを抱える彼女にとって、これ以上ない愛の告白ではないだろうか。
5.恋人たちを見て私が感じた「弱さ」「優しさ」「愛」
私は彼女のように、聴覚に障害を持っているわけではない。
でもひとみに共感する点がたくさんある。
コミュニケーションに引け目がある自分が恥ずかしい。
けれど、相手に気を遣わせてしまうのはもっと居たたまれなくて「ヤマアラシのジレンマ」状態になってしまう。
近づきたいのに遠ざかってしまう。
近付き過ぎたり遠ざかり過ぎたり。
「違う、違うのーーー!!!」
と叫びたくなるのだけれど、そうなったときはもう手遅れ🤣
一方、伸にも共感できる部分がある。
不器用なのに、他人事を自分事のように背負いすぎて空回りする。
特に、自分が大事にしたいと思った人にはとことん一途にのめり込み、真面目に考えすぎてしまう。
苦労人だからこそ、
痛みを知っているからこそ、
深く傷ついたからこそ、
それを乗り越えたからこその強さだ。
最近、公私ともにいろいろあり力の抜き加減、入れ加減を見極めるべきだと齢24にして知った私。
久々に再読した本作に登場するふたりは、
・人との向き合い方
・自分の在り方
についてたくさん考えさせてくれるきっかけを与えてもらった。
中でも以下の引用は、一生大事にしていきたいと思える名文だ。
痛みにも悩みにも貴賤はない。周りにどれだけ陳腐に見えようと、苦しむ本人にはそれが世界で一番重大な悩みだ。
障害の有無にかかわらず、人は誰でもプライドとコンプレックスの狭間で揺れ動く。
理想と現実のギャップに絶望したり、
それでも奮闘してみたり、
疲れ果てて潰れてしまったりする。
喜怒哀楽があり、
一長一短があり、
健やかなるときも病めるときもある。
それが人間という生き物だ。
その波を「面倒くさい」の一言で片付けてしまうのはあまりにも残酷で、そして傲慢だ。
人は弱さを自認するからこそ、他者の弱さも認めて受け入れられるようになる。
私はこのふたりの恋人たちを見てこう感じた。
だから私は伸のように、自分の愛する人にはとことん「面倒くさく」あってほしい。
「どうせ私の気持ちなんてわからない」
そんなの当たり前だ。
血を分けた家族だって分かり合えないときもあるのが人間だ。
それでも歩み寄りたいと思ったとき。
その瞬間、友達や恋人といった、ただの知り合いより一歩踏み込んだ関係になりたいと思う。