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「さまよえるWHO-米中対立激化の裏側-」

原題 WHO...Is In Control?
製作国 フランス
製作年 2020

アメリカが脱退を表明し、新型コロナウイルスへの初動の遅さでも批判を受ける世界保健機関・WHO。何が起きているのか?裏事情を著名政治家らへのインタビューから探る。
アメリカが脱退を表明した世界保健機関・WHO。新型コロナウイルスへの初動の遅さで国際的批判を受け、米中対立激化の“戦場”ともなった。予算の少なさ故に巨額の寄付を行う大国が影響力をもつと指摘されてきたが、最近では中国がその内部で勢力を拡大している。裏事情を仏マクロン大統領、パン・ギムン元国連事務総長らのインタビューによって明らかにしていく。
(BS世界のドキュメンタリー)

今回のコロナ危機で大きな問題となったWHOの対応。
そのWHOも当初は高い志を持って創設されたのだ。しかし、その設立後の過程を見ると指導力も信頼も失った現在の姿は必然ではないかと思えてくる。

以下に、今回の内容をもとにWHOの歴史を書き記す。

第二次世界大戦後の1948年に設立されたWHOは紛争から距離を置くことを目指していた。政治の介入を避けるため本部は中立国スイスのジュネーブに置かれた。
国際連盟もスペイン風邪の流行を受け、保険分野での連携を促進した。WHOはそれを凌ぐ、高い志のもと始められたはずだった。

冷戦中にはスターリン率いるソ連と共産圏の国々が脱退。保健を資本主義的に捉えるか、国が管理するものと捉えるのか、その概念を巡っても対立した。しかし、新たなソ連指導者フルシチョフのもとで復帰。
政治の対立を超えて課題に取り組んだWHOが成し遂げたのが天然痘の根絶だった。
そして1978年の歴史的なアルマ・アタ宣言。東西冷戦下の短い平和の中で結実した成果だった。
(世界保健用語集 アルマ・アタ宣言)

しかしその後起こったのが大国の主導権争い。
当時のWHOにはフランスの大規模病院の予算程度しかなかった。アメリカ大統領レーガンはWHOのその圧倒的な資金不足に目をつける。レーガンは予算の凍結も辞さず、WHOに圧力をかける。
WHOの抱える問題はHIVウイルスへの対策において顕になった。原因を直視しようとしない空気。結局、国際連合は新たな国連組織、特別プログラムUNエイズを設立して問題の解決に当たった。
WHOは資金難の解決策として、民間の拠出金にも頼っている。ゲイツ財団はアメリカについで2番目の資金提供をしている。資金提供する側は使い道の指定もできる。そのことに懸念を示す専門家もいる。

SARSの際はブルントラント事務局長のもと、断固たる態度をとる。当初は情報提供を行わなかった中国も情報開示。中国がWHOの重要性認識し、今に続く問題を残すきっかけとなった。ブルントラントの後任には中国が推す香港出身のマーガレット・チャンが選ばれる。
エボラ出血熱でも国境なき医師団などの警告にも関わらず、感染拡大が広がって半年もの間対策をとらなかった。
WHOにはアラートを出す権限を認めれている一方、内政不干渉の国連という組織の一員でもある。常にそのジレンマがあるというのが行動の遅れの説明になるのかどうか。

そして現在の事務局長、テドロス。エチオピアの独裁者のもとで保健大臣、外務大臣を務めた経歴の持ち主。医療体制の充実を推進した功績がある一方で、政敵の排除にも関わったとされる。国内投資が鈍るとしてコレラの発生を認めなかったこともある。WHOへの就任後は、ムガベ大統領を親善大使に迎え入れようとしたが、反発にあい撤回している。WHOというのがどういうものなのか理解していない証拠だろう。

インタビューでフランス大統領マクロンは言う。今まで国際機関に参加する国は国際的な価値観を尊重していた。問題は中国が価値観を合わせようとするか、価値観そのものを変えようとしているかだと。そして、歴史的に、パンデミックの時代に批判が向くのは国際機関だとも。
現在WHOが機能していないからといって、国際的な保健機関が必要ないわけではない。ゆきすぎた大国の利権争いをやめさせ、人々から信頼される国際機関として再び蘇らせる、それしかないのではないか。


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