読書記録「チボー家の人々 少年園」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著
山内義雄訳
白水uブックス
1984
少年園編は大まかに2部構成。
前半は家出騒動の後、父の創設した少年園に入れられたジャックを兄のアントワーヌが救い出すまで。後半はパリでの兄弟2人の生活。
コロナ禍で閉塞感のある生活をしているせいだろうか、ジャックの少年園で置かれた生活とその精神状態に共感を覚えてしまった。
ジャックは精神的・肉体的な圧迫を受けて極限の精神状態にあったと思われるので、自分の状況と比べるようなものではないかもしれない。
それでも、怠惰で何の刺激もない、でも最低限の衣食住は補償されている環境から抜け出そうという気力すら湧かないジャックの無気力状態は分かる気がする。
このままでは気力から何から全て奪われてしまうと危機感を抱くアントワーヌ。それでもジャックの心を開かせるのは簡単ではなかった。それでも諦めず、父の反対もわかっていながら計画を進めていったのは、もちろん弟への思いもあろうが、一種の父への反抗の気持ち、自分ももう子供ではないのだぞという気持ちが大きくあったに違いない。
9歳の差がある兄弟。マルセイユに迎えに行った時から、兄弟として、そして友人としての愛情が生まれ、少年園での弟の姿を見て更にそれが強まったのか。
弟を愛しく思い2人での生活を楽しみにはしているが、いざ弟を迎え入れる直前になると自分の身に降りかかる不自由さから弟が邪魔に思えてくる。それでも翌朝にはそんな気持ちも過ぎ去って暖かく弟を迎え入れる。そのあたり人間らしくてとても好感が持てる。
それと同時にすました感じの、ちょっといけすかない感じもある。チボー家の人間であるという強烈な自負心もある。
フォンタナン夫人にプロテスタントに興味がある風で話をしたり、さらっとリスベットと関係を持った上でジャックを気にかけて欲しいと頼んだり。
今は良き友人関係を築いているようにみえる兄弟。しかし、アントワーヌが真の意味でジャックを理解することはないのではと予感させる。
少年園に入れられていた1年でダニエルとジャックの関係も微妙に変化している。15歳前後の一年は大きい。
灰色のノートで感じた通り、ダニエルには父親のジェロームの影がみえる。そして、垢抜けた感じのダニエルにジャックが抱いた違和感。この違和感がこの先の2人の関係にどう影響していくのか。
ストラスブールから来たリスベット。ちなみに、この時期のストラスブールはドイツ領。第一次世界大戦後、再びフランス領となった。
リスベットはドイツ語も話す。恋愛においても精神性を重んじているように思えるジャック。
ジャックがリスベットに惹かれたのもゲーテやシラーなどを口ずさみ、詩に親しんでいたことが大きかったに違いない。
ジャックとリスベットとの関係が、彼女が家の手伝いをしていた時期ではなく、ブリューリンクおばさんの葬儀という場面であったことも何か意味があるのだろう。
これまでの感想
【チボー家の人々 灰色のノート】