海外音楽旅が普通の旅行よりおもしろい理由 その3
Written by 山下裕矢
海外でバスキング(路上演奏)をしてると、誰かから話しかけられて仲良くなることが多い、っていう話の続きです。
2017年夏、シドニーの市街地を中心にあちこちバスキングしてたんですが、ある時、ハーバーブリッジを北に渡って郊外のチャッツウッドという町に行った時のこと。この辺りはちょっといい感じの住宅街のようで、駅前の歩行者天国はキレイに整備されてて、ちょっとリッチめな人たちが行き交ってました。学生さんもみんなビシッと制服着てたりして。
大きなショッピングモールの前に陣取り、ちょうど美空ひばりの曲を歌い終えた時、「こんなところで生の日本の歌が聴けるなんてうれしい」と、日本人の年配の女性が話しかけてくました。そして、軽く自己紹介をして、CDも買ってくれたあと、彼女自身のことを少し話して話してくれました。
30年ほど前、仕事を定年退職した後で夫婦でシドニーに移住してきたそうで、その後しばらくして夫さんが亡くなったものの、ずっと一人でここに暮らしているとのこと。どうして一人になっても住み続けるのか、外国で苦労することはないのかと聞くと、どんでもない!という答えが返ってきました。
彼女曰く、日本にいた頃は、お年寄りやこども、障害者が道端で困っていても、すぐに誰かが声を掛けたり助けるのをほとんど見たことがないけれど、こちら(シドニー)にいると、そういうシーンに出くわすと、すぐに何人もの人が声を掛けて手助けするのが当たり前だそうです。続けて「今は日本も変わってるかもしれないけど、どう?」と言われて、ドキッとしました。ちょっと戸惑いながら全然変わってないか、もしかしたら見てみぬフリは増えているのかも、と伝えながら、情けない気持ちに。
そんな僕たちに、ケロッと笑って「あなたたちみたいな、人と積極的に関わろうとしてる若い人は応援したいから、頑張ってね!」と言って、彼女は颯爽と帰っていきました。
いつも、音楽を聴いてほしい、話しかけて来てほしい、いい感じの人と友達になりたい、CD買ってほしい、などと自分たちのことをアピールしたい気持ちでバスキングをしているわけですが、思わぬところで日本の社会のあり方を考えさせられる出会いになりました。
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