国策として奨励される婚活アプリの業界構造と採算
昨今のコロナ感染予防やコンプライアンスを重視する風潮は、人間関係にも変化を起こしている。独身者の婚活についても、職場恋愛や合コンで相手を探すのは少数派となり、最近では婚活アプリを利用することが主流になっている。
リクルートが20~40代を対象に定期的に行っている「婚活実態調査」の2023年版によると、婚活サービスを通じて結婚した人の割合は、2000年は1.4%に過ぎなかったが、2020年には15.4%にまで伸びている。婚活サービスの内訳には、ネット系アプリ、婚活パーティ、結婚紹介所等があるが、ネット系アプリを利用して結婚する割合が顕著に高くなっている。
■婚活実態調査2023(リクルート)
実際のパートナー探しでは、知人の紹介、お見合い、趣味の場なども含めた複数のルートから理想の相手を探しているが、結婚に至った人の4割は、婚活マッチングアプリを利用した経験がある。現代では、マッチングアプリによる婚活が社会的にも認知されるようになってきた。
この背景には、婚活マッチングアプリの信頼性が向上してきたことがある。日本政府は、少子化社会対策会議(2006年)の中で婚活サービスの必要性を認めた上で、信頼できる業者の認証制度を業界に求めたことで、「結婚相手紹介サービス業認証機構(IMS)」が2009年に設立された。
IMSでは、登録者の本人確認、性的目的の利用が無いこと、料金体系、サイトのセキュリティなどの項目が審査されて、健全な婚活サービスを提供する事業者への「マル適マーク」が付与されるようになり、2023年時点ではネット系婚活サービスとして7社が認証を受けている。
■IMS認証の婚活サービス
《IMS認証済みネット系婚活サービス》
■with
■ゼクシィ縁結び
■Dine(ダイン)
■tapple(タップル)
■東カレデート
■Pairs(ペアーズ)
■Omiai
地域の自治体でも、少子化対策として婚活アプリとの提携をする動きが、2023年から加速している。2012年のサービス開始から累計会員数が2000万人を超す「Pairs(ペアーズ)」は、三重県桑名市、静岡県湖西市、北海道室蘭市、愛知県西尾市、宮崎県宮崎市などと連携協定を結んでおり、市内の独身者に対してPairsを活用した婚活方法を学べるセミナーの開催と、参加者に対してPairs利用クーポンの配布を行っている。
地方都市では、同じ地域に住む相手と結婚したいというニーズが高いが、近隣の男女が出会える機会は限られている。そこで自治体がPairsのマッチング機能を活用することで、同じ市内、隣接した市町村との間の出会いを推進することが連携協定の狙いである。岐阜県の例では、関市・美濃加茂市・各務原市の隣接した3市がPairsとの協定を結ぶことで会員登録を促し、50km~100km圏内のマッチング確率を高めようとしている。
■岐阜県 関市・美濃加茂市・各務原市×Pairsの連携協定
また、累計会員数が900万人の「Omiai」では、地方都市の結婚支援とUターン、移住者誘致をセットにした協定モデルを作っている。島根県出雲市との提携例では、出雲出身者と出雲に関心のある20~30代の男女を対象とした「縁結びパーティー」を東京都内で企画して、参加者をOmiaiの会員ネットワークで募集している。出雲に思い出や関心のある者同士が結婚に繋がれば、出雲に生活拠点を置く確率は高くなり、自治体にとっては複数のメリットがある。
このように、婚活マッチングアプリの信頼性は高まっており、アプリの利用を公言する形の婚活もスタンダードになりつつある。そこに向けては投資ファンドも注目しており、婚活アプリが買収の対象にもなっている。
【婚活アプリの採算構造と投資価値】
国内では婚活アプリの総利用者数が3000万人以上とみられている。これは各業者が公表している累計会員数を合計した数だが、婚活サービスは出会いに成功しても、成功しなくても、熱心な活動期間は1年未満となるため、リアルタイムで活動中のアクティブ利用者数は、業界シェアトップの「Pairs(ペアーズ)」が約110万人、2位の「with」が約60万人という規模だ。
さらに、アプリのサービス体系には、無料会員と有料会員があり、会員登録をしてプロフィールと写真掲載をするところまでは無料、「いいね」を付けてくれた異性にメッセージを送信する段階で有料会員への移行が必要になる。ただし、女性の登録者を増やすために、女性会員は実質無料としているアプリが多い。男性会員の料金設定は、月額4000円前後が相場となっている。
月額課金のサブスクサービスではあるが、平均利用期間は6ヶ月~1年未満での退会率が高い。常に新規会員を獲得していかないとマッチングの成立件数が低くなり、広告費のコスト負担が大きいことがネックとなっている。婚活アプリのアフィリエイト制度では、ブログの紹介記事などに貼られたリンクからアプリをインストールして会員登録が完了した段階で、1件あたり2000~5000円の報酬が支払われている。
累計会員数が600万人と公表されている「with」の運営会社、株式会社イグニスの有価証券報告書によると、2019年10月~2020年9月の会員課金収入が43.5億円に対して営業利益は13.5億円(営業利益率31.3%)となっている。一方、ライバルの「Omiai(お見合い)」運営する株式会社ネットマーケティングは、2021年2021年7月~2022年6月の会員課金収入は36億円に対して、営業利益は3億8000万円(営業利益率10.6%)となっている。
■with
https://with.is/welcome
■Omiai(お見合い)
https://fb.omiai-jp.com/
【投資対象としての婚活アプリ】
婚活マッチングアプリの売上と事業価値は会員数によって決まるため、M&Aが活発な業界でもあり、そこに海外の投資ファンドも参戦する構図が形成されている。
世界で12兆円の資金を運用して企業買収を行う、米国拠点の投資ファンド Bain Capital(ベインキャピタル)は、2021年3月に「with」を運営するイグニスを約500億円で買収して、株式会社withに分社化した後、withが「Omiai」を買収する形で、2つの婚活アプリを傘下に収めている。元運営会社のイグニスとネットマーケティングは、東証マザーズに上場していたが、婚活アプリの売却後は非上場化した。
また、国内の婚活アプリシェアトップの「Pairs(ペアーズ)」を2012年に立ち上げた株式会社エウレカは、海外でMatch、Tinder、Vimeoなどのマッチングサイトを運営する米IAC社(InterActiveCorp)に対して2015年に、バイアウトしている。IAC社は世界100ヶ国以上で、恋愛、カーシェアリング、旅行、家政婦、住宅ローンなどのマッチング事業を買収する巨大ネットメディア企業である。
■Pairs(ペアーズ)累計会員数2000万人(公表値)
https://www.pairs.lv/
このように、海外ファンドが日本の婚活アプリ事業を狙うのは、少子化対策として「男女の出会い支援」が日本政府の重要政策となっており、そのデジタルサービスとして婚活アプリは社会インフラとして普及していく可能性が高いこと。さらにAIテクノロジーの導入により、事業価値を高めていくことができると説明している。
JNEWS LETTER 2024.2.21より