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silent5話の亡霊
好きな人と別れた後に初めて迎える朝、という種類の絶望がこの世にはある
好きだった人と別れた夜
ほとんど寝ていない朝方に目を開けた時のあの絶望感は独特なもので、身体に染み付いた癖と少しの願いを込めてLINEの通知が来ていないか起きてすぐスマホの画面を見るけれど
まだ早朝の時刻を伝える表示だけが残酷に目に入る、そんな朝
大人になるにはもしかしたら、そんな朝をいくつか越えなければいけないのかもしれない
『このまま紬と一緒にいたら無理になる』
3話で湊斗が言っていた「無理すると全部無理になる」が
見事に回収されてしまった
1話で同級生に
『想がいたら、青羽さん、お前と付き合ってなくない』
『再会とかされたらやばいでしょ普通に』
こう言われていたけど
想がいたら付き合ってないことなんて湊斗自身が1番嫌っていうほどわかっていた
紬にとっての想は絶対に想じゃなきゃいけなかったけど
紬にとっての湊斗は絶対に自分じゃなきゃいけなかったと思うことはきっと難しくて
そうやって紬のそばで無理し続けて、湊斗は全部無理になってしまった
高校時代の紬の手紙を勝手に捨てたみたいに
想の存在だって最初からなかったことにできたら結果は違っていたと思うけど
真子が言っていた『女の子をぽわぽわさせる』才能がある人にきっとそんなことはできなかったし
だからこそ『ぽわぽわ』がついた紬のヘアピンを湊斗が部屋のゴミ箱に捨てたシーンは湊斗の強い決意を表しているように感じて
「時を巻き戻して紬と想が出会わない世界線にしてあげて」と願ってしまうほど辛かった
余談だけど
もしいつかまた誰かを好きになって別れる時には
わざと彼の家にぽわぽわのついたヘアピンを残してあんな風に電話をしてもらいたいなと一瞬でも考えた私は、やっぱりきっと幸せからは少し遠いんだろうな
『全部、持てる?』
湊斗の家にあった荷物を紬が引取りに行った時、歯ブラシがどっちのか聞いた紬に
『青羽でしょ、かため』
と紬のことを名字で呼んだ湊斗
それはどこからどう見ても、恋の終わりの始まりだった
恋の始まりには理由がなくて 終わりには理由があると聞いたことがあるけれど
紬が想に恋に落ちた瞬間をはっきり見ている湊斗が
ぬるっと始まった自分と紬との恋の終わりには折り目をしっかりつけたのは、湊斗らしからぬ男の意地だったのかな
だけど、荷物をまとめた紬に湊斗がかけた
『全部持てる?』
という言葉は、
今そこにある物理的な荷物のことだけを指しているようには思えなかった
1人で荷物が持てなかった時期が私にもあって
でもいつしかこの持ってる荷物は全部持っていかなくてもいいんだ、時々置いていってもいいんだと気付いた時から少しだけ生きるのが楽になったのだけど
『戸川くんのこと、大好きだったよ』
と言った紬は、自分で荷物を持ってちゃんと歩き出した
「昔付き合ってた、大好きだった人」の荷物はきっと少し重くて持ちづらいけれど
大人になるというのはきっとこういう事の繰り返しなのかもしれない
この先、想と紬と湊斗がどうやって荷物を抱えながら歩いていくのか
まだまだ私はsilentの亡霊を辞められそうにない