星空の中、僕たちは、藍色の海に瓶を流す。
漆黒の海を船でゆっくり漂っていましたら、月明かりに反射する瓶を見つけました。
瓶を海面から拾い上げて蓋を開けて、中からくるまれた手紙をそっと取り出して読みました。
きっとわたし宛てのお手紙ではないけれど、勝手にお返事を書いて、拾い上げた瓶が来た方向へわたしも瓶を流してみることにしました。
自分の心からことばとして取り出して、瓶に詰めて海に流す。
流した後で船に乗って回収して、瓶を壊して手紙も燃やしてしまう。
よいのです。
抱えきれない感情は、海に流してしまってよいのです。流したものをこれ以上見つからないように拾いに行くのもよいのです。
手紙を燃やしてしまえば、灰になって消えてなくなります。
ではそれは、最初から手紙を書かなかったのを同じになるのでしょうか。
自分の心からことばにして取り出すときの、痛み。
手紙を書いて瓶に詰めて海に流すのに要した、時間。
海に流れていった瓶の場所を突き止めて船を出して拾いに行く、体力。
また島に戻ってきて、瓶に石を振り落として割る時の、焚き火に映るあなたの表情。
……手紙を書いていなければ、存在しなかったものたちです。
わたしはこれからも、今日瓶を見つけた方角に船を出すと思います。月明かりの中、時折オールを漕ぎながら、波の流れに乗って。
今は時化っているとしても、いつかはきっと凪ぎます。
あなたのことも、ほかの人のことも。
このお手紙が誰も傷つけないことを祈って。
おやすみなさい。