春を告げる日 【#あなたの温度に触れていたくて。】
「……続いてはお天気です。澤田さーん?」
「はーい!」
「いよいよ3月下旬らしい気温になってきましたね〜! テレビ局前の桜も今朝満開になっていました!」
「そうですねー、関東では例年より3日早く満開を迎えました。日本海側の低気圧が停滞した影響で……」
カーテンが踊って、穏やかな空気とともに早すぎる主役の最期を連れてきた。
桜の花びらは ふわり ふわり と私の部屋を漂い、白い折りたたみテーブルに放置されたチョコレートの箱の上にとまる。
テーブルに額をつけたまま、私はそれを見届ける。
日差しのせいで、後頭部はすっかりぼかぼかだ。
小さい頃からずっと、私には縁のない、ただの一日だった。
なのに。
「1か月だけ。ねっ、1か月でいいから!」
放課後の教室。
夕焼けが差し込むせいで、点いてんだか点いてないんだかわかんない蛍光灯。
ばかじゃないの?
それが最初に浮かんだ言葉だった。
私なんかに「一生のお願い」を使うなんて。
でも、私の存在を認めてくれる人がいた、という事実に舞い上がってしまったのも事実で。
「……わかった。じゃあ、1か月だけね」
すっかり陽が落ちて冷えてきた帰り道、顔の火照りが取れなかったのは、マフラーをしていたせいじゃない。
なのに。
私のその言葉を、君はどう受け取ったんだ?
君は、最後の1か月に、何をしたかったんだ?
私なんかと一緒になって、何がよかったんだ?
……わからない。わからないよ。
ねぇなんで教えてくんなかったの。
なんで話してくんなかったの。
悔しいよ。
言ってくれたら、私がその大きな背中にそっと手を回せたのに。
風が勢いよく吹いて、さっきやってきた花びらと渡せなかったお返しのチョコの箱が、床に飛んでいった。
テレビは天気予報が終わり、視聴者から寄せられた桜の写真を紹介するコーナーに変わっていた。
部屋の外からは子どもの声と、その子を追いかけているのであろう親御さんの声が聞こえてきた。
みんなが春の訪れに足を踊らせる中、
私だけが2月14日の放課後にいて。
陽がどんどん傾いていく教室の中、ただただ君がまたあの扉を開けて入ってくるのを待っているみたいだった。
こちらは、xuさんとのコラボ企画「#あなたの温度に触れていたくて。」への参加記事です。
企画詳細↓↓↓
イメージソング↓↓↓
一応、テーマは「冬の恋」「バレンタイン」、該当ジャンルは「短編小説」のつもりで書きました(完全なフィクションです)。でも、どちらかというと春要素強めのお話になってまいました……、ごめんなさい。
こちらの企画、いろんな方が参加してくださっていて。
ゆっくりになってしまっていますが、私も皆さんの作品を拝見させていただいています。
イメージソングから連想したものを作品に取り込んでくださったり、感想をくださったり。さらには「イメージソングを演奏できるようになりたいです!」と言ってくださる方もいて。とても嬉しいです。
開催期間は3月14日までとなっています、ご参加をお待ちしております。
以上、ゆっずうっずでした。
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2023-04-14 23:09
開催終了から1か月を経て誤植を発見、修正。
背中です。手中ってなんだ。