【蟹葉荘】第一話
「ざーー…サクジツオ…ざーー…ワガ…ざー…クズレ…ざーー…130メー…ざーー…ソンカ…ざーー…ジンシンヒガ…ざーー…カクニ…ざーー…マセン。」
「このラジオは何ですか?」
「防犯対策の一環でこの付近で何かが起こると、流れる様になってるんだよ。
平和な地域だから普段は鳴らないんだけど、なんせ昨日はそこの山で水害による土砂崩れが起きたからね。今日はラジオが流れっぱなしだよ。」
「…これじゃ何が起きたか分かりませんね。」
「時間帯によって変わるよ。…今は回線が混雑してるんだろう。…今日からこの106号室が君の部屋だよ。」
「突然入居したいと言っといては何なんですが、まさか即日で入居出来るとは思ってませんでした。」
「ウチはちょっと特別だからね。」
「…というと?」
「…あぁ。…まぁ…周りに何も無くて、電波も悪いから住みたいって人が居ないんだよ。まぁ…住めば都だと思うよ。」
「成程。所でここは土砂崩れの影響は無かったんですか?」
「ここは大丈夫だったよ。山の裏の方は影響あってね。道路は潰れちゃったけどね…でも、ここに昔から住んでるけど、土砂崩れなんて起きた事無いんだけどね。」
「それ程雨がきつかったんですかね?」
「う〜ん…確かに雨がきつかったけど…アレぐらいの雨はたまにあるんだけどね〜。」
「…地盤が緩んでたんでしょう。」
「そうかな?…まぁ。私も101号室に住んでるから何かあったらいつでも言ってくれ。…ちゃんとベルを鳴らしてね?…決して中を覗かない様に。」
「いやそんな、鶴の恩返しみたいな言い方。…いや、あれ若い女の子が言うから気になるんすよ?誰も大家さんの私生活気にならんすよ?」
「勝手に中を除いたら即退去してもらうよ?」
「いや、このアパートにおいたら…鶴の一声やけど…。えっ?鶴なんすか?」
「とにかく私は今から病院行くから。」
「どっか悪いんですか?」
「いや…私が病院に行くと病気が治ると言われていてね。」
「鶴やん!折り紙の方の。…大家さんいくつなんですか?」
「来月で…967歳かな?」
「鶴やん!純度100%の!」
「ここに立ってると、なんかこう…伸びる様な。えぇ…この、建物に巻き付く様な。」
「…蔓やん。植物の方の。…せめてまとまってから言ってくれんと。…普段使わん筋肉使わせますよ?」
「それは攣るやん。」