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『CIVIL WAR』を観て

『CIVIL WAR』を観てきました。
僕は映画の批評や評論を書く人間ではないので、ただの感想を書きたいと思います。書きたくなるくらい色々考えさせられ感じさせられた映画だったのです。
話題になっていた映画なので、どんな感じの映画なのかは知っていました。
”アメリカが分断され、そして内戦が起きる”
確かにそういう映画でした。そういう意味ではSFでもあるのでしょう。
音がすごい、というのも評判通りでした。IMAXで観ることができなかったので通常の上映回を観ましたが、それでもすごい音でした。戦争映画は色々観ていますが、そういう映画に比べて、いかにも戦争らしいシーンというのはそんなに多くないかもしれません。ラストの方だけかも。でもそのシーンも含めて劇中での銃撃の音が凄すぎてぐったりしました。いい意味で。銃撃の音で何回もビクッ!となりました。戦争シーンというのは、不謹慎な言い方をすれば、エンタメとしての戦争映画には不可欠ですし、その意味ではこの音のインパクトは十分にエンタメでした。

ただ、僕が今まで観た戦争映画と違っていたのは、観た後の感覚です。
戦争映画を観た後は、人間ってどうしようもないなとフーッとため息をついたりして虚しさを感じたり、本当に酷い話だななんて歴史に思いを馳せたりするのですが、そんな感覚はありませんでした。全く違ったのです。

ただただ、怖かったのです。
恐ろしい、と思いました。
この映画はフィクションなのだから歴史に想いなんて馳せないでしょ?ということではないのです。むしろこの映画はフィクションなのに、とても背筋が寒くなるようなリアリティがありました。フィクション、作り話、エンタメとは思えない怖さがあったのです。むしろ後半の戦闘シーンがあったおかげでエンタメとして映画を観るように気持ちが切り替えられてホッとしたかもしれません。
何がそんなに怖かったのか。
僕は何をそんなに怖いと思ったのか。
色々なところでたくさんの方々が語っているように、ジェシー・プレモンスが演じる赤いサングラスの男のシーン。本当に強烈でした。僕が恐怖を感じたのはまさにあのシーンでした。映画を観て息を飲んで緊張した経験はあります。エイリアンがどこから出てくるのかとドキドキするシーンとか。マフィアや侍が殺し合うシーンとか。でもこのシーンで僕が感じた恐怖や緊張はそうしたものとは全然違うものでした。
「こんな事が本当に起きるかもしれない」という緊張と恐怖です。
人種差別や社会の歪みの先にはこういう事が起きるだろうという肌感、もうそんな社会・世界になっていると日々感じている不安や恐れの感覚が、「こういうことだろ?」とダイレクトに映画として見せつけられた気がしました。
この映画に出てくる街や道路は、奇しくも僕らがアメリカで暮らしてツアーしていた時に訪れた場所ばかりでした。映画の中で登場人物が通るシティからDCまでのルートが「ああ、こうやって行くんだ」とイメージできたことも僕にとってはリアリティを感じさせるものでした。彼らが爆走する田舎道やハイウェイの景色、ガソリンスタンドや店、どれを見ても「ああ、あそこみたいだな」と思っていました。そこが死体や燃えた車だらけであること以外は。
とてもフィクションや作り物とは思えない。そんな恐怖でした。

不思議なものです。例えば自分の住んでいる街や生まれた街がホラー映画の舞台に使われたら、それは自分にとって馴染みのある景色であるはずなのにリアリティを感じるとは思えない。なのにほんの数年住んだ外国の街が舞台として描かれることの方がよりリアリティを感じる。リアリティというのは景色や風景ではなく、そこに描かれる人々やその性格などの全部をひっくるめて描かれる「世界」にこそ感じるのだな、と改めて思いました。

映画を観た後、パンフレットを買いました。赤いサングラスの男の場面についてのインタビューの中で、監督のアレックス・ガーランドは「多くの人は、あの兵士が人種差別主義者だと気付きませんでした。」と話していました。僕にとってはそのこともとても恐ろしく、衝撃でした。自分が「これは酷い」と感じることを、そうは感じない人がいる。確かにそうでしょう。だから人間の歴史は血塗られたことの繰り返しなのですから。でもついさっき自分が感じた恐怖の場面を、そういう恐怖とは受け取らない人がたくさんいる、という監督の言葉はとても重く突き刺さりました。とても考え込んでしまいました。

僕にはたくさんの外国人の友人知人がいます。人種も様々です。
僕は絶対に人種差別を受け入れません。ですが「〇〇人であるかどうか」で紛争が起き、国が引き裂かれるという世界の現実が毎日突きつけられます。
この映画はアメリカが舞台ですが、こうした人種差別によって起きる悲劇はどの国でだって起きることです。かつて日本でもありましたし、今もそれは沸々としている。日本でも世界でもいつそれが爆発してもおかしくない。そしてどの国でも現在進行形で起きていることです。その危機感に実感がない人は自分の感性を疑ってほしい。この映画を観て「怖いねえ」と安穏としていられる人やその危機感がよくわからないという人は、ぜひ一度外国で暮らすことをお勧めします。僕らはほんの紙一重で「差別する側」「差別される側」どちらにもなりうるのです。そのくらい世界は危ういのです。自分の国にいるから安心などということは絶対にない。自分は加害者にも被害者にもなりうる。僕はどちらにもなりたくない。でも、今世界はその紙一重の場所にいます。常に。

僕は、この映画によって今ここにあるリアリティや恐怖についてとても考えさえられました。絶対に忘れてはならないことを強烈に刻み込む事ができました。震えるほど怖かったですが。心地よいものではないですが大切な体験でした。
極めて個人的な感覚であり体験です。

個人的、と言えば音楽が良かったです。
スーサイドの曲がこんなに主役になった映画なんてあったでしょうか?
怖いシーンでビクビクしながら「あ、スーサイドだ!」なんて楽しんでいました。
映画は素晴らしいです。


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