何も言わない。

私たちがいなくてもきれいに咲く花よ。教えて欲しい。あなた達は同じ土の水を吸うのに、それぞれに違う色の花を咲かすのね。わけ・あたえることはどうやってすればいい。同じ土の水を吸うから、私たちはさもしくなるのだろうか。

肉を削ぎ落とす春の中で、骨だけになって行く夏までの間に、幾人の人が死に、幾人の人が新たに生まれるのだろう。天井に咲き乱れる花びらの数ほど空が遠くなる。公園では子供たちが、あたたかい芝生を飛び回り、やわらかい影だけを落としていた。私たちには空気が必要なのだと、当たり前のことをふと、思い出す。風にさらわれて、いつまでもきれいなままの。

手渡すこともはばかられて行く。見詰め合うことも困難だから、書き記して行くと今度は顔が分からなくなって。生存安否の連絡をする。道を挟んだ向こうで灯る、名のない灯りに向かって。あなたのお名前は? 尋ねても返事はない。返事はないまま、灯りが消えて行く。

私たちの体にも牛蒡のような根があったら、迷わずにこの身を正して、同じ空に向かって伸びて行けるのだろうか。それとも、やはりちぐはぐに伸びて行って、ある時、歩き出して離れ離れになるだろうか。どちらでもいい体が地面に垂直に立っている。私は大きく息を吸い、それが口の奥で溶けて私の一部になるのを感じていた。子供たちが舞う。花は何も言わない。