は、さくら。

吐き出された。私達はてんでばらばらで、行方も掴めない。ご挨拶、もなしに別れる。ここには一かたまりの列が出来ていて、吸い込む空気と吐き出す空気とがごっちゃになっている。口元を覆う。それでも防げない、とは分かっていながら。

安寧のための物干し竿に掛ける、ただまっさらなお日さまの色をした服。こうやって風に触れると、からだが軽くなる。車は相変わらず忙しなく通り過ぎ、排気ガスがいつも通りに充満している。車はウイルスを撒き散らさないの。えらいね。窓を閉めても入り込んで来る走行音を掃除機で吸い尽くすと悲鳴が聞こえた。助ける手段を持たないのでさらに吸った。

そう言えば、と言われて聞いた人の行方について何も知らない。見たこともないし聞いたこともない。私の方には風が吹いて来なかったみたい。すてきね。知らないでいられることに安堵しながら帰る。道々、視界を走り去る夜の町に残像が重なる。もう何度も見た。何度も見たが答えはない。人間はこんな風に人間と出会い、人間と別れ、人間として生きて行くのか。馬鹿みたいだ。それでも馬鹿みたいに生きて行くんだ。

桜が散っていました。たくさんの桜が散っていました。たくさんのたくさんの花びらになって落ちていました。繋ぎ合わせることが出来ません。取り戻すことが出来ません。それでいいのだと、ピンク色になった公園の砂場が言っています。やわらかい風が吹きます。吹いて行くんです。そこにどれだけの溜息が混じっていたのか知らない。でも風はやわらかく、あたたかく、滲んで、洗濯物をかろくして行く。私の寿命を一ミリずつ少なくして行く。それでいいんです。葉桜が眩しい。