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Vol.4 移ろいゆく、メタバースの「団らん」 - 永遠の「おかえり」を求め
ふとした瞬間に、胸を締め付けるような寂しさが込み上げてくることがある。人肌恋しい秋の夜長だけではない。大勢で笑い合った飲み会の帰り道、一人きりの部屋で、その静寂に耐え切れなくなるような、そんな時。誰もが一度は、この言いようのない孤独感、寂寥感を味わったことがあるのではないだろうか。
私自身、この「寂しさ」とは、長年の付き合いがある。大学進学を機に、実家を離れて一人暮らしを始めた。真新しい生活への期待に胸を膨らませていた当初は、毎日が楽しくて仕方がなかった。しかし、しばらくすると、何もない休日に一人、部屋で過ごしていると、無性に人恋しくなることが増えてきた。大勢で笑い合った飲み会の後や、友人たちと楽しい時間を過ごした後、一人きりの部屋に戻ると、その落差に打ちひしがれ、言いようのない寂しさに襲われた。
そんな時、私の心を癒してくれたのが、オンラインゲーム、そしてVRChatだった。特に、VRChatは、私にとって特別な場所となった。そこには、いつも誰かがいて、温かく迎え入れてくれる。「人がそこにいる」という感覚は、孤独感を和らげ、私に安心感を与えてくれた。
現実世界では見ず知らずの人と仲良くなるのは、容易ではない。しかし、VRChatでは、アバターという仮面を被ることで、誰もが素直に、そしてオープンに、他者と繋がることができる。見知らぬ人同士が、まるで旧知の仲のように語り合い、笑い合い、共に時間を過ごす。毎日が新しい出会いに溢れ、刺激的だった。
毎晩のようにログインし、仲間たちと過ごす時間は、私にとって、かけがえのないものとなった。「おかえり」という言葉に迎えられ、「ただいま」と返す。それは、物理的な場所ではなく、精神的な意味での「帰属意識」であり、自分が「ここにいていいのだ」という安心感、そして、誰かに「必要とされている」という実感を与えてくれた。
これは、新しい形の「団らん」と呼べるのではないだろうか。デジタル空間における「団らん」、いわば「メタバース団らん」だ。物理的な距離を超え、時間的な制約も少なく、誰もが気軽に参加できる。これは、現代社会における、一つの画期的な発明だと、私は思う。
しかし、この「メタバース団らん」は、万能ではない。最近、私は、新たな課題に直面している。それは、この「団らん」が、永遠には続かない、ということだ。
インターネット上、とりわけVRChatでは、現実世界よりも、はるかに速いスピードで、人と人とが繋がっていく。毎日、気軽にログインし、数時間にわたって会話をしたり、遊んだりできる。しかし、その一方で、人間関係の消費スピードも、また速いのだ。
もちろん、現実世界でも、ずっと同じメンバーで集まり続けることは難しい。生活環境の変化、価値観の相違、様々な理由で、疎遠になってしまうことはあるだろう。しかし、現実世界で、とても仲の良い友人ができたとしても、毎日、毎晩、数時間にわたって共に時間を過ごすことは、まずない。多くても、月に1、2回会えれば良い方だろう。一方、VRChatでは、それが日常なのだ。結果、現実世界の数倍、数十倍の「濃密」な時間を、短期間で共有することになる。
あるフレンドは、こう言っていた。「VRChatのコミュニティは、だいたい半年から一年で入れ替わる。早ければ3ヶ月くらいで変わることもある」。
3ヶ月はさすがに大袈裟かもしれない。しかし、体感としては、その言葉は、あながち間違いではないように思える。コミュニティのメンバーの入れ替わり、自分が仲良くする人たちの変化。それらを総合的に見れば、そのフレンドの言葉は、VRChatにおける人間関係の儚さを、的確に表していると言えるだろう。
つまり、「メタバース団らん」は、常に流動的であり、いつかは終わりを迎える、儚いものなのだ。だからこそ、私たちは、絶えず新しい「団らん」を、新しい「仲間」を、探し続けなければならない。まるで、永遠に満たされることのない渇きを抱えた旅人のように。
もちろん、新しい出会いは、刺激的で、楽しい。私自身、新しい人と出会い、仲良くなることは大好きだ。しかし、同時に、言いようのない虚しさを覚えることも、また事実だ。
あんなに仲良くしていたのに。あんなに、毎晩のように一緒に時間を過ごしていたのに。…そんな思いが、頭をよぎる。そして、気づくのだ。私は、「おかえり」と言ってもらえる場所を、心の拠り所を、永遠に探し求めているのかもしれない、と。
この「メタバース団らん」の儚さを、どう捉えれば良いのだろうか。そして、私は、この先、どこへ向かえば良いのだろうか。その答えは、まだ見つからない。しかし、この問いを胸に、私は、今日もまた、メタバースの世界へと、ログインするのだ。移ろいゆく「団らん」の中で、一瞬一瞬の出会いを大切にしながら、いつか、本当の意味で「帰る場所」を見つけることができる、その日を夢見て。