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Vol.13 メタバースでの「モテ」を考える──“見た目”から解放される仮想社会の本質
私たちが暮らす現実世界で「モテる」とは、往々にして外見の美しさ・かっこよさが大きな要因のひとつになる。しかし、VRやXRといった技術によって形づくられる“メタバース”では、アバターを自由に選べるため、“生まれ持った容姿の差”がそのまま表には出にくい。そしてこの「見た目格差の一律化」は、一見すると非常に公平な世界を創りだすように見えるが、実際には「内面」や「コミュニケーション能力」による新たな評価軸が浮き彫りになることを意味している。本稿では、そうしたメタバースでの「モテ(人に好かれること)」を考察し、いかに“いい人”としての人間力が重要になるかを探ってみたい。
1. メタバースにおける容姿の“一律化”──本当に姿形は関係ないのか
メタバースに代表されるソーシャルVRサービス(VRChat、NeosVR、clusterなど)では、プレイヤーは多種多様なアバターを利用できる。「美形かどうか」「スタイルは良いか」といったリアル世界での身体的特徴は、基本的にそのまま反映されない。こうした特徴ゆえに「メタバースでは誰もが平等だ」とよく言われるが、それは半分正解で、半分誤解とも言える。
アバターのセンスや作り込み
アバターの見た目そのものには魅力や個性が出る。たとえば美少女アバターなのか、ショタアバターなのか、改変はファンタジー風やSF風、あるいはリアクロ路線など。カスタマイズ(改変)やコーディネートのうまさが“第一印象”に影響するのは事実だ。ボイスチャットや仕草
多くのソーシャルVRでは、音声や身体の動きを使って会話する。声の高さやトーン、表情や挙動なども、ある意味では“見た目”に近い印象を左右する要因になる。
ただし、これらの要素は“生まれつき”というより、アバターの選び方やVR上での振る舞い方によって自由に変化させられる。よって、現実で容姿に恵まれた人が自動的にメタバースでもモテるかと言えば、まったく別の話なのだ。
2. “顔”が外れる世界で試される“中身”の重要性
アバターの可愛さ・かっこよさで多少は「第一印象」が変わっても、メタバースのコミュニティでは“中身”や“コミュニケーション能力”こそ長期的な評価のほぼすべてを決定すると言ってよい。
礼儀正しさや優しさ
フレンドや知り合いに挨拶を欠かさない、相手の話を否定せず受け止めるなど、現実社会でも求められる基本的なマナーが顕著に物を言う。相手を楽しませる工夫や話題作り
イベントを企画したり、みんなで遊べるワールドを提案したり、会話の中で面白いトピックを振って盛り上げる人は自然と人気者になる。共感力や思いやり
「それ、いいね!」「わかる、私もそう思う」という具合に、相手の気持ちに寄り添うことができる人は、多くのフレンドに好感を持たれやすい。
3. そもそも「モテる」とは?──異性同性問わず好かれる状態
従来、「モテる」といえば異性からアプローチされることをイメージしがちだ。だが、メタバースにおけるモテはもっと広義で、「友達が多い」「周囲が自然と集まってくる」「イベントに招待されがち」「SNSでもフォロワーが多い」なども含まれる。異性・同性を問わず、「あの人と関わりたい」「一緒に過ごしたい」と思われている状態こそ、人間的な魅力としての“モテ”だと言えるだろう。
メタバースではアバターの性別が実際の性別と異なる場合も多く、恋愛に限らないコミュニケーションが活発に行われる。そのため、純粋に“人柄が良い”という要素を武器に、同性からも「もっと一緒に遊びたい」と思われるかどうかが大きい。仮に恋愛対象として見られなかったとしても、同じコミュニティで「仲良くしたい」と思われる人材は、やはりモテる人であるといって差し支えない。
4. アバターの選び方は“センス”の一部
もっとも、「見た目が完全に無意味」というわけではない。たとえば、VRChatやNeosVRなどで3Dアバターのカスタマイズを行い、それを自作したり改変したりするのは立派な創作活動だ。それを評価されることも少なくない。アバターを見て「可愛い!」「かっこいい!」と思われるのは現実で言うファッションセンスに近いし、「アバターづくりにかける情熱や技術」を認められて人気が高まるケースもある。
しかしそれは、あくまで“外面”を作るためのクリエイティブスキルやセンスとしての評価であり、「生まれ持った顔立ちの美醜」とは根本的に違う。さらに言えば、そのアバターを着ている人の言動があまりに乱暴だったり失礼だったりすれば、結局は評価にマイナスがつく。メタバースでモテるには、外面(アバター改変センス)だけではなく、内面(振る舞い)の両輪をそろえる必要があるのだ。
5. “中身重視”がもたらす新たな“残酷さ”
メタバースが容姿を一律化した結果、内面が決定的に重要になった……と聞くと、「それは公平で素晴らしい世界だ」と思うかもしれない。しかし、そこには新しい残酷さも潜んでいる。
コミュニケーションが苦手な人にとってのハードル
現実世界では「話すのが苦手でも、見た目が好印象だから大目に見てもらえた」ということがあるかもしれない。しかしメタバースでは、見た目の“生まれ持ったアドバンテージ”が効きにくく、“会話スキル”が重視される。苦手意識が強い人ほど差が開きやすくなる。誠実さ・性格の善し悪しが如実に表れる
現実でも性格は大切だが、容姿や肩書きなど他の要素で多少はカバーできるケースがある。ところがメタバースでは「社会的地位」「財力」といった外的要因も見えにくいため、むしろ人格が丸裸にされやすい。結果、「感じの良い人」と「そうでない人」の落差は顕著になる。
こうした状況は、ある意味では「本当の意味での人間力勝負」であり、「中身を磨かないと太刀打ちできない」という厳しさがある。いわば“むき出しのコミュニケーション能力”が試される世界なのだ。
6. では、どうすればモテる?──“いい人”を目指す具体策
メタバースでモテるためのポイントは、実は特別なものではない。むしろ“人として当たり前の行動”を地道に積み重ねることが近道だ。たとえば次のような点を意識すると、周囲からの評価は確実に向上しやすい。
挨拶や反応をしっかり行う
VRChatでは「挨拶回り」や「書き置き」といった独自の文化があるように、ちょっとしたやりとりを丁寧に行う人は自然と好印象を得やすい。
相手が話しやすい雰囲気を作る
自分の話ばかりでなく、相手の意見に耳を傾け、相槌や合いの手を入れる。
他者を否定しない、マウントを取らない
特にアバターや技術面の話題は、それぞれの好みや得手不得手があるので、「それいいね!」「面白そう」と肯定的に受け止める姿勢が大切。
“ありがとう”と“ごめんなさい”を素直に伝える
些細なミスや気遣いに対して謝罪や感謝を言える人は、コミュニティで信頼される。
イベントや企画に積極的に参加・協力する
メタバースではユーザー主体のイベントが頻繁に行われる。運営を手伝ったり、参加者を盛り上げたりすることで“あの人と一緒にいると楽しい”と思われやすい。
要するに、シンプルな“いい人”を目指すことが大前提なのだ。現実世界での表層的な容姿や財力のような“裏技”が使えない以上、地道なコミュニケーション能力の向上こそが最も効果を発揮する。
7. メタバース=人間力を磨く“訓練場”?
こうしたメタバースの特徴を前向きに捉えると、「人間的魅力を鍛えるための絶好のフィールド」と見ることもできる。外見を取り払った場所でどれだけ“モテる”かというのは、裏を返せば「純粋に他人と良好な関係を築くスキルがあるか」の試金石でもあるからだ。
メタバースでは、いくらでもアバターを変えて振る舞いを“偽装”することも可能だが、長期的につきあうコミュニティでは結局、人間性が見抜かれてしまう。むしろその過程を通じて、「自分はどうすれば皆と楽しく過ごせるか」「どう言えば相手が嬉しくなるか」などを体感的に学ぶ機会にもなるのだ。
これはリアル生活においても大きな意味を持つ。メタバースで培ったコミュニケーションの姿勢や思いやりは、現実の人間関係にそのまま活きることが多い。逆に言えば、メタバースでも敬遠されがちな言動はリアルでも敬遠されるケースが多い――メタバースとリアルの“モテ”は、実は地続きなのだ。
8. まとめ──“残酷なほどにフェア”な世界で“いい人”になろう
メタバースでは、現実社会の“生得的容姿”に頼ることができず、中身の勝負になる。ここに「平等で優しい世界だ」という面がある一方、「コミュ力や性格が整っていない人にとっては残酷な世界」という面もある。誰しもがアバターを美しく変えられるが、“美しい心”を得るには日々の行動と努力が必要だからだ。
しかし、こうした世界に身を置くことは、私たちが“いい人”として成長するチャンスでもある。礼儀、優しさ、面白い話題、共感、誠実さ――これらを身につけた人こそが、メタバースで真にモテる。しかも、それはリアルでも変わらない普遍的な魅力となる。
「結局、顔が見えなくても心が見える」――メタバースという“顔なき社会”だからこそ、人間の本質はむしろクリアに浮き彫りになるのではないだろうか。残酷なほどにフェアなこの舞台で、私たちは“中身”を磨き合う。外見に自信がなかった人も、逆に外見に頼ってきた人も、新しい形での“モテ”を手に入れる時代が訪れようとしているのだ。そこでは、リアル以上に“人と人とのやりとり”が重視される。だからこそ、「いい人になろうね」という言葉の重みを、改めて胸に刻みたい。
※本エッセイは、特定の個人やコミュニティを批判する目的はありません。また、各種ソーシャルVRサービスの利用規約やコミュニティガイドラインに沿って活動することを推奨します。