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Vol.12 なぜVRChatにハマらないのか?──その原因と背景を探る
VRChatはVRヘッドセットやPCからアクセスできるソーシャルVRプラットフォームで、アバターを使って自由にワールドを巡り、世界中のユーザーとリアルタイムでコミュニケーションできる。筆者も3年間で8,000時間以上プレイし、仲間や新規ユーザーを“体験会”という形で案内し続けてきた。ところが、中にはVRChatの魅力にどっぷりハマる人もいれば、一度体験してみて「合わない」とすぐにやめてしまう人もいる。
本稿では、そうした「ハマる人とハマらない人の差」を年齢・属性・初期体験などの観点から考察する。何が“壁”となり、何が“魅力”を支えているのだろうか?
1. 年齢によるハマりやすさの違い
1-1. 若年層が中心のVRChat人口
一般的に、VRChatのユーザーは20代が最も多いと言われる。公式的な年齢別統計は公開されていないが、ソーシャルVRライフスタイル調査2023といったユーザーアンケートや国内メディアの報道からも、10代後半から20代が活発に利用している傾向が伺える。30代や40代以降も一定数いるものの、PC環境の整備やVRヘッドセット購入へのハードルを考慮すると、比較的若い層が多く集まるのは自然な流れだろう。
1-2. ITリテラシーと環境整備の壁
VRChatを楽しむためには、ある程度のITリテラシー(ゲーミングPCのセットアップやソフトウェアのインストール、VRデバイスの設定など)が求められる。若年層は比較的SNSやPCゲームに慣れているため、導入ハードルをクリアしやすい。一方、50代以上になると「SNSをあまり使わない」方や「リアルの情報をどこまで出すか分からない」という戸惑いを覚えるケースが見受けられる。
筆者が実際に50代の方を案内した際、「どの個人情報を出していいかどうか分からない」といった不安が大きく、VR内で“別の自分”を作ることに強い抵抗感を示していた。これは年齢というよりSNSリテラシーや「別人格を演じる」ことへの慣れの差とも言えるだろう。
2. 属性──どんなタイプがハマりやすいか
2-1. サブカルに精通している層
VRChatのコミュニティを覗くと、サブカル系のアバター(美少女アバター、アニメ風アバター)が圧倒的に多い。これは二次元カルチャーやゲーム文化への親和性が強いことの裏付けでもある。アニメ・ゲーム好き、いわゆる“サブカルが大好きな人”がハマりやすいのは自然な流れだと感じる。筆者自身もゲーム(ドラクエXなど)のオンライン要素に慣れていたため、VRChatにもすんなり馴染めた。
また、エンジニアやクリエイターのような技術を持ったユーザーも多い印象だ。VRChatではUnityやBlenderを使ったアバター改変・ワールド制作が盛んで、プログラミングの知識があるとさらに楽しめる要素が増える。こうした拡張可能性に惹かれる技術系ユーザーがコミュニティを支えている面は大きい。
2-2. MMORPG経験者
VRChatはゲーム要素こそ薄いものの、“アバターを操作し、仲間と共に仮想空間を冒険する”という点ではオンラインRPGの雰囲気に近い。筆者もドラクエX出身で、フレンドと一緒に狩りやイベントに興じる楽しさを既に知っていたため、VRChatにも違和感なく飛び込めた。逆に、“オンラインゲーム未経験”のユーザーにとっては、「ゲームでもないのに、ただみんなで雑談するだけ?」という感覚が強く、目的を見いだせないまま離脱してしまうケースがある。
3. 初めての体験がカギ──案内役とコミュニティ接続
3-1. 初期導入時のハードル
VRChatを始める際は、アカウント作成やチュートリアル、コントローラ操作の学習など、最初に覚えることが多い。さらにVRゴーグルを導入するなら、単体でのセットアップ、PCVRならPCスペックの確認や機器設定が必要になる。このとき、周囲に詳しい人(案内役)がいればスムーズに学べるが、一人で手探りだと躓きがちだ。
筆者が見てきたなかでも、「自力で始めようとしたが操作がよく分からなくて挫折した」というパターンは少なくない。初心者にとっては、「何をしたら楽しいか」「どのワールドに行けばいいか」すら分からない。そのまま放置すると、“何もできない=つまらない”という結論に至ってしまうのだ。
3-2. “最初の友達”がいるかどうか
実際にハマるかハマらないかを分ける大きな要素は、“最初の友達”を見つけられるかにあると感じる。同じ初心者や初心者に優しいフレンドや案内役がいれば、不安や疑問をその場で解消し、面白そうなワールドやイベントに誘導してくれる。コミュニティデビューがスムーズにいけば、「また遊びたい」と思う確率は格段に上がる。
反対に、周囲に知り合いがおらず、初回からパブリックワールドに飛び込むと、英語勢や既に出来上がった仲間内の空気に飲まれてしまい、会話に入れず気まずくなることがある。VRChatは“誰でもウェルカム”という側面が強い一方、リアル知り合いが一人もいないと“広大すぎる世界”に放り出された感が強く、馴染みづらいという印象を抱きやすい。
4. その他の要因
4-1. “目的のなさ”と“自由さ”のギャップ
VRChatは明確な“ゲームの目的”がない。モンスターを倒したりレベルを上げたりする要素は基本的に存在しないため、「何をしていいか分からない」と感じる人は多い。その自由さに魅力を感じられるか、“ただの雑談空間”と捉えて退屈に思うかは人によって違う。
• ハマる人: 「何も決まってないから自分で何でもできる!イベントを開こう、アバターを作ろう、フレンドと朝まで語り合おう…」
• ハマらない人: 「ただのチャットツール?ゲーム要素がないと飽きる。何をすればいいのか分からない。」
4-2. アバター文化への抵抗感
VRChatでは、美少女アバターやアニメ風キャラが非常に多い。これが好きな人には天国だが、リアル寄りの3Dモデルを期待していたり、アニメ文化に馴染みがない人にとっては「なんか自分には合わない」と感じるかもしれない。VRChat内の大半がサブカル系アバターだという現実も、ハマりづらさの一因となるかもしれない。
5. まとめ──ハマる人・ハマらない人、その分岐点
以上の要素を総合すると、VRChatにハマる人には以下の特徴が見られる。
1. 比較的若い世代(10代~20代が中心)で、ITリテラシーやSNS慣れがある
2. ゲームやアニメなどサブカル文化への抵抗が少なく、アバターを楽しめる
3. エンジニアやクリエイター気質で、改変・ワールド制作を積極的に楽しむ傾向
4. オンラインRPG経験者で“仮想世界に複数人で集まる”感覚を理解している
5. 最初の案内役や友達がいて、不安を取り除きつつコミュニティに接続できた
反対に、ハマらない人は……
• SNSをほとんど使わず、新たなオンライン人格を作るのに抵抗を覚える
• 50代以上でPC・VR環境の導入ハードルが高い(ただし年齢よりリテラシーの差が大きい)
• 明確なゲーム性がないため、**「何をしたらいいか分からない」**と早々に離脱
• アニメ文化や美少女アバターが肌に合わず、「自分の居場所がない」と感じる
• 初期導入時に案内役やフレンドがいなかったため、コミュニティに入れず孤立
おわりに
「VRChatは誰もが楽しめる“仮想空間”」と語られがちだが、実際にはそれを活かせる環境(ハードウェアとITリテラシー)や文化的嗜好、そして最初の体験で受けるサポートの質などに大きく左右される。筆者が数多くのメタバース体験会を開いてきた中でも、やはり初期段階のつまづきがその後のモチベーションを左右しているのを何度も目にしてきた。
VRChatの魅力は、言い換えれば「限りない自由」と「人とつながる楽しさ」だ。それゆえ明確なルールや目標がなく、オンラインRPGのようなゴールが用意されていない。そこに可能性を見いだせる人はどっぷりハマるし、見いだせない人はあっという間に離れてしまう。いかに“自分なりの遊び方”を発見し、“気の合う仲間”を見つけるか──このプロセスをスムーズに進められるかどうかこそ、メタバースでハマる・ハマらないを分ける鍵なのだろう。
※本エッセイは、筆者が3年間で約8,000時間VRChatに没入し、多くの人をメタバース体験へ誘導してきた経験を踏まえ、「なぜVRChatにハマらない人がいるのか?」を考察したものです。実際の年齢層データや文献情報については、公的に入手できる範囲で挙げています。なお、本内容はあくまで個人的な見解・体験に基づくものであり、特定のユーザーや年代を断定的に評価する意図はありません。また、特定の年齢層や属性を一括りに評価する意図はありません。また、年齢や嗜好によらずハマる・ハマらないの個人差は大きい点もご了承ください。