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副業で月5万稼ぐ - 意味が分かると怖い話

「副業で月5万稼げるって、そんなに難しくないんだよ。」

同僚の田中が、コーヒーを飲みながらそう言った。昼休み、会社の休憩室で。最近、彼は何かと副業の話をしてくる。以前はお金に困っている様子なんてなかったのに、ここ数ヶ月で態度が変わったのが気になっていた。

「ちょっとやるだけで、意外と簡単にお金になるんだ。興味ない?」

「いや、俺はいいかな…。副業って、なんか手間がかかりそうだし。」

実際、田中がやってることには興味がなかった。どこか怪しいし、そこまでお金に困ってるわけでもない。だけど、田中の顔には妙な自信があった。「簡単に稼げる」って言葉には、何か得体の知れない魅力があるのかもしれない。

その後も、彼は何度か副業の話を持ちかけてきた。内容はあまり詳しく話さない。だが、「ちょっとした作業で5万稼げる」「リスクはほとんどない」といった曖昧な説明ばかり。それでも、いつも笑顔で話す田中が、不思議と信じられる気がしてしまう。

ある日、仕事終わりに田中に誘われて飲みに行った。ビールを片手に、いつものように副業の話が始まる。

「本当にやる気があれば、明日からでも5万はすぐに稼げるぞ。今の仕事に影響はないし、ただちょっとだけ…」

「どうやって稼ぐんだ?」

「そこだよな、みんな気になるのは。でも、実際やってみないと理解できないと思う。とりあえず一度試してみれば、わかるって。」

田中は、ポケットから名刺を出して俺に手渡した。名刺には会社名の代わりに、ただ一言「興味があれば、こちらに連絡を。」とだけ書かれている。番号もメールアドレスもなく、QRコードだけが印刷されていた。

「それ、何の副業なんだ?」

「ちょっとした仕事さ。細かいことは気にしなくていい。俺がやってることと同じだから、安心していいよ。」

不安がなかったわけじゃないが、なぜかその日は田中の言葉に流されるように、QRコードをスマホでスキャンしてしまった。リンクを開くと、暗い背景にシンプルな画面が表示され、そこで簡単なプロフィール入力が求められた。名前とメールアドレスを入力して送信すると、すぐに返信があった。

「次の指示に従ってください。」

それだけの短いメールだったが、どこか冷たく、機械的な文面に不安がよぎる。しかし、興味に負けて、メールに記された場所に翌日向かうことにした。


指定された場所は、会社からさほど遠くないビルの一室だった。古びた建物に薄暗い照明。受付もなければ、誰かが出迎えてくれるわけでもない。ただ、メールに書かれていた通りの部屋番号に進むと、重厚なドアが現れた。ノックするも応答はない。ドアを押すと、軋むような音を立ててゆっくりと開いた。

中は意外にもシンプルなオフィス風の部屋だった。デスクと椅子が一つ、それにノートパソコンが置かれている。

「こちらに座ってください。」

突然、背後から男の声がした。振り返ると、いつの間にかスーツ姿の中年男が立っていた。鋭い目つきでこちらを見つめている。どこかで見たことがある顔だが、思い出せない。

「仕事の内容はシンプルです。画面に従って作業を行えば、約束通り月5万が手に入ります。」

その言葉に少し安心して、椅子に腰を下ろす。ノートパソコンの画面には、シンプルな指示が表示されていた。

「入力を開始してください。」

画面の指示通りに、無心でキーボードを叩く。最初は単純なデータ入力だったが、次第に内容が複雑になっていく。長い文字列、数字の羅列、時折出てくる人名や住所。それらをただ淡々と入力していく中で、背中に冷たい汗が滲んできた。

「これって、何のための作業なんだ…?」

一瞬、不安が頭をよぎったが、すぐに消し去った。簡単な仕事でお金を稼げる。そんな都合のいい話があるわけがない、と思いつつも、引き返せない感覚が俺を支配していた。


数週間が経った。確かに、月5万は稼げていた。口座には確実に振り込まれている。だが、それと引き換えに、俺の日常には何かが少しずつ侵食してきていた。

最初は小さな違和感だった。いつも飲んでいるコーヒーの味が変わった気がする。通勤中、駅で見かける人々の顔が妙に無表情であることに気づく。会社でも、田中が以前よりも無口になった気がした。

それでも、俺は副業をやめられなかった。次々と届く指示に従い、仕事をこなすうちに、頭の中で何かが変わっていくのを感じた。記憶が曖昧になり、日々の出来事が霧のように薄れていく。


ある日、再び指定された場所に向かうと、見覚えのある顔があった。田中だ。だが、彼の表情は以前と全く違う。無表情で、目に光がない。まるで生気を失ったような姿だった。

「田中…どうしたんだ?」

彼は何も言わず、ただこちらをじっと見つめていた。その瞬間、背後からあの男の声が再び響いた。

「次はあなたの番です。仕事は終わりです。」

振り返った瞬間、視界が急に暗くなり、意識が遠のいた。


目が覚めると、デスクの前に座っていた。ノートパソコンの画面には、また新しい指示が表示されている。しかし、今度は画面の端に、見覚えのある名前がいくつも並んでいた。

その中には、俺自身の名前もあった。


解説

田中が言っていた「副業で月5万」というのは、単純なデータ入力ではなく、恐らくは何らかの犯罪行為や危険な組織に関与する仕事だったのでしょう。最初は些細な作業に見えていたものの、主人公は徐々にその闇に引き込まれていき、最終的には田中のように「消されて」しまったのです。

ノートパソコンに表示されていた名前は、もしかするとこれまでに犠牲となった者たちの名前であり、今後もそのリストに次々と新しい名前が加わっていくのかもしれません。主人公も、気づかないうちにそのリストの一部となり、やがては「無表情な存在」として他の者に同じ話を持ちかける側に回るのでしょう。

もしあなたが「簡単に稼げる副業」を勧められたとき、それは本当に安全な道なのか、一度立ち止まって考えた方がいいかもしれません。もしかすると、田中のように後戻りできない道を進んでしまうかもしれないのです。

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