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物書きとマジシャン#17
師匠はりんごのお酒でとてもご機嫌のようだ。
しかし、お酒で自分を見失うことの無い人だというのは、これまでの宴を見ていても間違いは無いだろう。
ただ、酔わなきゃ酔わないで周囲を不快にさせてしまう事があるため、時に酔ったふりをすることはある。
「ははは、ちゃんと飲んでるかお前」
「ああ?もちろんだとも。
それにしてもやっぱり美味いな。
奥さんの料理も最高だし、本当に幸せ者だよ」
「そうだろうとも、いやあその通りだ」
すっかり盛り上がっているところに奥さんがこっそり声をかけてくれる。
「この二人ならいつもの事だから、構わず部屋で寝ていいからね。」
ありがとうございます。
お湯と布を貸してもらうと身体を拭く。奥さんはずいぶんと僕に良くしてくれるので、つい甘えてしまうのだ。
今までの境遇から、どこかに一抹の気味の悪ささえ感じてしまったのはずいぶん失礼な自分に嫌気がさすほどに。
奥さんはまた師匠とご主人との会話に戻り、楽しそうにしているので、それらの物の後をきれいにしてから、お礼だけをきちんと言いにいく。
「あらまあさすがだわ、後は気にしなくていいからね。」
そんな風に言ってくれるので、子供心に嬉しくなるのは仕方が無いはず。
すると師匠が、おおそんな時間かと続きは明日にしようと切り出すと、そうだねと名残惜しそうにそれぞれ席を立つ。
「おし、じゃあおやすみ、ありがとうなあ」
師匠がまるで宙に浮いているように言うとご主人が「ああ、ゆっくりな」と返してくれた。
「よし、メルそっちの寝床を使っていいぞ、俺はこっちで寝る。」
ありがとうございます。
それぞれ、さてと眠りにつく。
「良い夫婦だろう?」
そうですね、奥さんが本当に良くしてくれて驚いています。
そう答えると師匠がはははと笑いながら続ける。
「まあなあ、いろんな思いが絡んでるんだろう。それにどうやら俺は応えにゃならんようだ。」
いくら弟子とはいえ連れてきてしまった以上は仕方がなく、高くついてしまったのだろうと随分後に思う。
人とはこういう一面も持つものだという事を師匠は早々に教えてしまいたかったのかもしれない。
あるいは、僕を子供のうちから知ってくれる人を一人でも多く作っておきたかったのかもしれない。
いや、師匠の事だから両方だろうか。
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。