物書きとマジシャン#15
「なあ、メル」
はい、師匠。
「あいつが持っていたものだが、ノスの銀貨じゃなかったんだよな。」
そうですね、見たことがありませんでした。
捕縛して牢に入れていたザルツさんなら、事情を聞き出す際におそらく取り上げて見ただろう。
そして、襲撃者に回収されていないのであればまだ持っているはず。
師匠たちが考えているのは、彼らが何をしたかったのかがわからないという点だろう。
「国の数だけ通貨はあるから、俺らが知らないものの方が多いだろうが。」
そんなに多いんですか?
「ここみたいに無くなってしまった国の分も含めると、多いだろう?」
ああ、そうか。
「だが、そのまま使われるなんて稀だろうな。」
彼らが何をしたかったのかがわからないと、また同じことが何度も起こるという不安はいつまでも続く。
ザルツさんいわく言葉が通じなかったとのこと。
そして、まだ街のどこかに潜んでいるかも。
ザルツさんは銃で襲撃を受けたらしい。
犯人グループは2人、外の見張り役も考えると少なくとも3人はいただろうという話をしているという。
ザルツさんの体の大きさは、同じ商団に居る人間なら誰もがうなずくはずだが、さすがに銃には敵わない。
太ももと胸にそれぞれ銃弾を受けたというが、懐に入れていた銀貨と銅貨が命を守ったという。
倒れ込んでいる間に地下牢のカギを壊し、拘留していたあの人物を引っ張り出して引き上げる流れは、事前に十分計画されたものだろう。
「そして、怖いのはあの商館の内部構造を知っていたということだな。」
商館は古い建物で、元は貴族の家だったらしい。地下に牢があるのは、おそらく奴隷を囲っていた物だといわれている。
今回の件をまとめると、おそらくはこんなところだろう。
店のお金は大丈夫なんですか?
「ああ、それはな。」
こんなところでそんな話をしたら誰が聞き耳を立てているかわからない、と詳しくは教えてくれなかったが、大丈夫ではあるらしい。
「ザルツのケガは心配だが、もう復帰する気でいるしな。」
ええ?
「大事な血管が傷つかなかったのが幸いだった。それ次第ではどうなっていたことだか。」
そうだったんですね。
「俺らも明日はどうなってるかわからん。
せめて悔いなく生きたいもんだよな。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。