物書きとマジシャン#14
「あら、もしかしてあんた一人で待ってんのかい?」
隣の店の奥さんから声がかかる。
はい。ただ、危なそうなら師匠の自宅へ走れと言われました。
「そうかい、んじゃうちに来なと言ってもかえって心配させちまうね。」
ありがとうございます。
「どうやら戦の類じゃなさそうだけどねえ。
うちの人も行ったっきりまだ帰ってこないから、一緒に待ってようかね。」
それはとても心強い。
「やだねえ、最近どうも物騒になってきた気がするよ。」
また半時ほど過ぎただろうか、まだお昼前だというのにずいぶん時間が経った気がする。
「あ、帰ってきたようだね、良かった、一緒みたいだよ。」
奥さんがそう弾むように言うと、確かに向こうから二人の姿が見える。
小走りなので無事、そしておそらく危険は無さそうだ。
「やれやれ、水をくれないか。」
そうお隣のご主人が奥さんに言う。
「二人ともちょっと待ってな。」
「メル、こっちは大丈夫そうだな。
良かった。」
無事で良かった。
「ザルツがケガを負っててな。」
「無事だったのかい?」
「ああ、なんとかな。
医者のとこまで連れてったところさ。」
「あいつめ、重いったらありゃしない。」
ははははと二人して笑う。
「笑い事じゃないさ、こっちは心配してたんだから。」
「いやあ、すまん。
でも、あいつの命が無事でほっとしたのさ。」
「メル、おまえが一人の時に妙な客が来ただろう?
あいつを商館で捕えてたんだが、事情を一切話さないもんだからそのままだったんだ。」
「この前の妙な客って、あのノスから来たって客かい?」
「ああそうだ。俺が引っ張っていったやつさ。」
隣のご主人のダルフさんに助けてもらった時の、あの人か。
「あいつを引っ張り出していったらしい。」
「やっぱり仲間がいたんだな。」
「それじゃ強盗の類じゃなかったんだね?」
「いや似たようなもんさ、カネを要求したがザルツが石の入った箱を指さすとそれを持って行ったとさ。」
「そんなのさすがにわかるんじゃないのかい?
その場で殺されちまうよ?」
「言葉が通じなかったらしくてな、もともと強盗用にとカギのかかった箱を用意していたらしい。今頃さぞ驚いてるだろうな」
「商館ももっと厳重にしないとだめだねえ。」
「まったくだ。」
近所の人達もこの会話を聞いて、やれやれと一息ついているようだ。
「ザルツもずいぶん度胸があるよなあ。
さすが、うちらの商館の主を張ってるだけあるよ。」
「やっぱり、あいつなりに色々考えてたんだな。」
「回復したら酒を飲ませてやらんとな。」
「あれであんまり飲めないからなあ。」
皆それぞれの持ち場に帰る。
「いろんな人間が集まってる街だからな。
良いやつばかりじゃあないさ。」
僕が複雑そうな顔をしているのを見たのか師匠がそう言う。
「嘆いていても生き延びられやしない。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。