物書きとマジシャン#3
師匠、西はイリス、東には何があるんです?
風に舞い上がった細かい砂に、台の表面がさっとまぶされる。それを見るや、湿らせた雑巾でふき取りながら師匠に尋ねる。
「東か。東は我々とはまた違う民族の国があるぞ。
それも一つではない。」
どんな国なんですかね。
「主に、王の一族が束ねる国だな。古来より内戦が多く、そのせいか有名な兵法書まであるような、そんな国さ。」
へいほうしょって何です?
「そうだな、お前も良く知ってると思うが、戦争をはじめとした争いはちょくちょくあるだろう?」
はい。
そのたびに農作物が荒らされて、僕たちがお腹を空かせることになります。
「その戦争を、いかに血を流さず知恵で解決するにはどうしたらいいかという、人間の心のスキをつく術を綴ったようなものさ。」
そんなすごいものがあるんですね!
もし、それで本当に戦争までしなくていいなら、みんながしんどい思いはしなくても良くなります。
「そうだな。だが、その代償みたいなものだが、少し卑怯じゃないかと思えるものもそれなりにあるんだ。」
それでも、血を見ないで済むなら。
「おまえはそう思うか。
それを基にしたジュキョウという、宗教をもつ国もあるんだ。」
へえ。
「上下関係に厳しいのが特徴だな。」
師匠と僕みたいなものですか?
「そうだな。親は子に逆らえないみたいなものだな。」
ええ?
「一見、合理的で自然に見えるかもしれんが、そうやって年長者をただ無条件に敬うようにすることで、長く生きているだけに当然に持っているだろうお金や情報を引き出すひとつの"兵法"かもしれんな。」
うわあ。
「実際そんなもんだぞ?ただ、常識までそうなっている社会だから、さぞ窮屈だろうな。従わなきゃ異端者として一生はぐれものだろう。」
きつそうです..。
「だから、自分が年長者になった時に、積年のうっぷんを目下の人間に思いっきりぶつけるわけさ。」
…。
「典型的な悪循環だな。ははは。
…俺も師匠なわけだが、そうした方が良いか?」
えええ!やめてください。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり実在するものとは一切関係がありません。