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物書きとマジシャン#9
冬になるとこの辺りも雪は積もるが、北から東にかけて南の海に抜けるまで山が囲うため、豪雪からは免れるこのメイサの街は、昔から行き交う人々の休息地として発展してきた。
特に北の山々が無ければ、真冬は氷の下に沈んだだろう。
秋から先は西との行き来が盛んになる。それから春まで待って、改めて東や北に旅を再開する人たちも少なくない。
また、本格的な冬に入る前に訪れる西の祭りを見物に東の険しい山々を越えてきた人たちも、このメイサで一息ついて出発する習慣がある。
ところで師匠、
東の山の向こうにはこのメイサのような街があるんですか?
「街というか村があってな、
その先まで降りれば少し大きな街があるぞ。」
へえ、どんな街なんだろう。
「そこから川を下る海に出ることができるが、海沿いに大きな街がある。
そこが東の国の王都だな。」
王都!なら相当大きな街なんですね。
「そうだなあ、イリスくらいはあるな。
その海の向こうにはイナホと呼ばれる島国が浮かんでいる。
俺もさすがにそこまで行ったことは無いがな。」
イナホとは不思議な名ですね。
「そう聞かれるとそうだな、どんな由来があるのやら。
ただ、そこの国の技術は目を見張るものがある。」
へえ、どんなものがあるんでしょうね。
すると師匠は周囲に目配せたうえで内緒だぞと前置きをする。
「例えば、この指輪なんかそうさ。」
え?
師匠の右手中指の指輪がそうだという。
何の変哲もない皮のリングだ。
よく見ると小さな透明の石がひとつ、くっついている。
「気づいたか、石がついているだろう?」
はい。
「これがないと、幅広く両替商をするにはちょっと不便なんだ。」
どういうことです?
「まあ、そのうち見せる機会があるだろうから、楽しみに待っとけ。」
師匠がふふんと鼻を鳴らす。
両替商と言えば師匠、ここのお金は誰が作っているんですか?
「お?いいところに気がついたな。」
ずっと不思議だったんです。
「ここがもともと国だったのは話をしたな。」
はい、かつての戦争で滅んだと。
「そう。実はそのまま元の通貨を使っているだけだ。」
ええ?そうなんですね。あれ?
でもそれだけだと数が減っていくだけな気がします。
「お前が言った警備兵と同じ事情さ。
作れないんだ。」
作れない?んですか?
「難しいよな。
お金も金や銀の含有量で取り引きされるのが主流なんだが、まだ連盟はあっても警備兵の話すらまともに決められない。」
ええ。
「なのに、作るなんて話ができると思うか?」
もしや、揉めるんですね。
「それどころじゃない、下手したら戦争になりかねん。
自由にお金を作れる権利は大きい。」
あ。
「含有量をちょろまかすことだってできる。
いったい誰がどうやってそれを止める?」
そうか…。
「だから一緒なのさ、複雑だろう?」
複雑ですね。
「このメイサがここまで不思議なバランスで、しかも発展するとは誰も思っていなかったんだろうな。そりゃそのうちどこかの国に属するだろうと思っている人間も少なくないはずだ。」
でも、ほかの国が黙っていないと。
「そうさ。なにせ各国の資産が集まってるからな。」
ややこしいです。
「ややこしいだろう?」
師匠が続ける。
「だが、だから良いのさ。」
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。