物書きとマジシャン#41
昼間に商館へ出入りする人間は少なくない。
所属はするものの店を持たない商人が取引相手と話をしたり、あまり仲が良くない連中から身を守るために駆け込むような場所にもなっている。
過去に襲撃があったことで門を閉じているときは、合言葉のような作法が必要だ。
だが、今のような休日ではない明るいうちは門を開いている。
まだ駆け出しで大きな取引も難しい若い商人は、商館の仕事を手伝ったり請け負ったりして下積みをしつつ、他の商人たちに顔を売ることができる。
中には気に入られて、手広く商売をする人の弟子に迎え入れられたりすることもあるため、単身で商人になろうと志す人にはもってこいの場所かもしれない。
最近ではメイサの街に移り住む人が多くなってきたせいか、見ない顔がずいぶん増えた。
よほど身元が怪しくない限りは、街の警備組織に所属することもできるため、その仕事で食べている人も増えてきたようだ。
ザルツさん、お茶でお迎えしたいお客様が二名、お話しできる場所をお願いします。
「おおそうか、メイサへようこそ。
そちらの部屋へご案内しよう。」
珍しい装いであったために、すぐに事情を把握したらしい。
「おい、お茶を三つ、いや五つ隣に注文して持って来させてくれ。」
カウンターで手伝う若者にそう声をかけると、ザルツさん自ら部屋へと導いてくれる。
「すっかり寒くなりましたな。
メイサは初めてですかな?」
「ええ初めてです。
もう少し早く来る予定でしたがサウスから出るのに手間取りまして。
聞いていたよりは大きな街ですな。」
「サウスからですか。
陸路でお越しで?」
「いや、船を使って南から参りました。」
「なるほど、このままご出立されるので?」
「今日はここで宿を取りたいのですが、その前に両替をと。」
「それがいい、イリス行きの馬車が三日後に出ます。
定期便なのでお得に早くお着きになれるかと。」
すると何やら通訳の方と話し込み始めた。
「本当ですか?手配しなければと調べるつもりでいたんです。
よければ詳しくお話を伺いたい。」
「ならば、良い宿もご紹介させていただきましょうか。」
「お待たせしました。
メイサのお菓子もお持ちしましたが…。」
ちょうど隣の喫茶店からお茶が届いた。
「おお、ありがたい。
ぜひ、宿もお願いできますか。」
「かしこまりました。」
ザルツさんがお客さまとのやり取りをしてくれている間に、証書を作り上げることが出来るわけだが、宿まで話が決まるとはさすがだと感心する。
旅のお客さんの手間を出来るだけ減らしてあげるのも、ひとつの商品としてなり得るから面白いものだ。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。