物書きとマジシャン#37
「傭兵は傭兵さ。
いつだって報酬をたっぷりくれるやつの傭兵だよ。」
はははと笑いながらも目が笑っていない事に気づく。
「じゃあ、おれの質問にも答えてもらおうか。
こんな何も無ければ危ないとも言われる土地に何をしに来たんだ?」
アレクが黙って僕の方に視線を送ろうとする。
ここで間を空けるのは良くない。
いや大したことじゃない、危ないのは聞いていたがこの身なりだ。
もうすぐ冬も来るしなあ。
ずいぶんと放置された畑が多いって聞くから多少なりとも腹を満たせるものを確保できないかと思ったまでさ。
「…そうか。
確かに街中じゃそういうのは期待できないな。
流浪人の手から如何に逃れるかで苦労が多いだろうし。」
ああ、子供の頃は一度連れて行かれそうになったな。
「なるほど、街暮らしがそんなに長いんだな。
商館に出入りするくらいになるんだから大したもんだ。」
それもこれもみんな師匠のおかげだ。
「いいね、何か良い商売があったら頼みたいよ。」
儲かってないのか?
「ノスの連中がまともに金なんか持ってるわけないじゃねえか。
とは言え、この家には思い入れもあるしなあ。
離れるに離れられねえんだな。」
小屋じゃないのか?
「おいおい、初対面で言ってくれるじゃねえか。
…まあその通りなんだがな、ははははは」
街中と違って空気が澄んでいる。
やはり風に砂が混じっていないから良い。
「おれにとっては、親父から受け継いだ思い入れのある家さ。」
良い話を聞かせてもらったな。
水も美味かったし、ありがとう。
今日はこれで街へ帰るよ。
「そうか、まあ何かの縁だ。
近くへ来たらまた寄ると良い。」
それはありがたい。
もし出来るなら畑仕事の知識を得たいなんて思ってみたりしてな、まあゆっくり人を探してみようと思うよ。
「へえ、畑に興味があるのかい?」
周囲に畑と詳しい知識を持っている知り合いがいないんだ。
「おれも親の見よう見まねで芋しか知らん。
幸い土が良いのか、そこそこ収穫があるから生きていけるんだが。」
おお、それは羨ましいな。
「何言ってんだ。
田舎者はせめてそのくらいできないと居場所がねえ。」
傭兵もこなしていたんだろう?
すごいじゃないか。
「親父の跡は、もともと兄貴がこのあたりを仕切っていたんだ。
家と一緒に燃えちまったがな。」
…なんか悪いところに触れちゃったな。
「気にすんな、おれが勝手に話しただけさ。」
もし気が向いて街中に来ることがあったらザルツの商館に来てみてくれ。
そこで、このメルを訪ねてくれればいい。
「そうか、わかった。」
世話になったな。
「ん、いいって。
気をつけてな。」
じゃ、アレク帰ろうか。
「はい。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。