物書きとマジシャン#31
「なあ、最近銀貨と銅貨の回りが悪くてな。
どう思う?」
商館の主、ザルツさんが銀貨を数えながらつぶやく。
店のお金の一部を銀貨で引き出しているところだ。あとは銅貨ももらっておかないと両替に対応できない。
いつも夕方の帰りに寄っていた商館だが、酒場からの帰りの一件があって以来、こうして朝に寄ることにしている。
今まで帰りの方が売り上げの分も増えているからと、何も考えずに夜に回していた作業だが、冷静に考えると大きい取引は証書で行うので、これでもいいかもしれない。
朝だとアレクだけ先に店に行ってもらうことだってできるし。
師匠がやっていたからそのままだったが、ここに来て意外な発見だ。
そういえば師匠に聞いたことがあります。
メイサのお金って今は造って無いんでしたっけ。
「ああ、ってやっぱり原因はそれか。」
金貨は庶民はなかなか手にしませんし、もうすでに不足気味なのでは。
だとすれば、うちみたいな両替商はこれから厳しくなりますね。
「メイサに限るならな。
まあそもそも、それを見越して貯め込んでるやつもいるだろうな。」
だから余計に実感するようになってるんですね。
「相場はどうだい?」
ええと、メイサ銀貨ならイリス銀貨1.6枚が基準で、
仮に1枚だけ交換するなら…ほんとだ。
「倍か?」
そうですね、
手数料込みでイリス銀貨2枚はもらわないとダメですね。
「おいおい、こりゃ結構上がるぞ。」
師匠がいた頃は1.3くらいでしたから。
「そうだよな、
あれからまた人も増えたしな。」
それにしても急すぎますね。
やっぱり誰かが貯めこんでるのもあるのでしょうか。
「おそらく、何年かかけてやってるのもいるだろうな。」
ところで、これってどうにかできるんですか?
「うーん、それぞれの商人が自分の商団へ支払う所属料をかなり値上げするか、新たに鋳造して流通量を増やすか、、。」
新たに鋳造するのは、型も残っていないから無理だろうって話でしたね。
「そこなんだよな、
そしてうちだってそうだが、どこかの商団が供給できるものじゃねえ。」
そうなると連盟ですか。
「またややこしくなるぞ。」
今はまだ2枚に乗っていないからなんとなく、あれ?っていう感覚なんでしょうね。
「そう、まだ証書やイリスが通用する分マシなんだろうさ。
閉鎖的な国なら、とっくに大不況だな。」
みんな替わりにイリスを使い始めたらまずいですかね。
「だいぶまずいな、今の今まで揉めてきたんだ。
今更でも他の国が黙っちゃいないだろう?」
なら…。
「あ。」
ヴォルフさんたちに話を聞いてもらった方がよさそうだ。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。