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物書きとマジシャン#8
「今回は世話になったようで、ありがとうな。
これ、ちょうどもらってきた物だから喰ってくれ。」
「そうか、悪いな。」
「いいのかい?」
「ああ、そこまで気が回って無かった。
感謝してるよ。」
「なあに、お互い様だって。」
昼間の一件の後。
お隣のご夫婦に師匠がお礼を言っているところを、半歩後ろでほうき片手にじっと聞いている。
「よくやったな、メル。」
いえ、ご主人のおかげで助かりました。
「ほんとに賢い弟子を持ったもんだ。
羨ましいよ。」
「俺も運が良かったと思ってるよ。」
あまり師匠という存在は、自分の家族や弟子を良く言うものではないのかもしれないと勝手に思っていたが、こう言われるとここに居ていいんだと思えてくる。
「で、そいつは結局どうだったんだ?」
「ああ、ノスの流れ者だろうって話だ。」
「それだけか?」
「わからん、しばらく西の商館に拘留するそうだ。」
「そうか。」
後でゆっくり聞いた話だが、確認のためにこっそり呼ばれたボウノのおやじさんも知らない顔らしい。
うちが両替をやっていることは見た目にはわからないはず。この辺りの店の紹介ならまっすぐやって来れても不思議ではないが。
まあ、子供一人相手ならいけると声をかけてきたのは間違いないだろう。
「なあ、メル。」
はい、お師匠。
「すまなかったな。」
いいえ、ただ…。
「ただ?」
なんだか、こういったことが続いている気がします。
「そうだな。
この時期は余計にこうなるんだろうな。」
その、警備兵みたいな人たちはいないんですか?
この前なんか本当に誘拐されるかと思いましたし。
うーん、と師匠が頭をかきながら言う。
「政治が絡んでるからなあ。
少し話をしてみるか。」
アレクくんが走り回るようになったら、さすがに心配だと思います。
"アレク"は師匠の息子さんの名前だ。
師匠が珍しく、うっという顔をしている。
おそらく、この街の危なさについては誰もが言いたいことがあるだろう。ただ、事情が複雑なので誰も言い出せないだけだ。
どうかしたら、街を二分するような争いになるかもしれない。
商人団体の裏には周辺各国の存在があるため、どこかの国の間接的な支配と見て取れる状況になると、間違いなく揉めるだろう。
あのノスから来たと思われる人物も、本当の目的は何なのか全くわからないときている。
ただ、僕はもうあんな思いをするのはごめんだ。
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。