3/22「無人島にもっていくなら」ショートショート
「無人島に持っていくなら何にする?」
居酒屋で大学のゼミ仲間の集まり。オレはみんなに話題をふった。
よく耳にする究極の選択だ。持っていけるものは1つ。3つまでというパターンもある。
何かしらの集まりで会話がなくなった時に持ち出す、ゆるく盛りあがる便利な話題。
誰でも参加できる簡単な会話でもあり、各人の性格が垣間見える会話でもある。
「ライターかなあ、でもガス切れたらおしまいだよな、あ、あれがいいかな、テレビでキャンプするとき使う、鉄をたたいて火花散らすやつ」
現実的。無人島に行くことなんてないのに、懸命に考えてくれるいいやつ。
「ナイフ。木を切って家つくったり、いかだ作ったり」
ワイルド系。もしくは冒険系テレビ見過ぎ。
「ペットボトルの水。水が確保できるまで時間かかるだろうし、飲んだ後の容器は雨水を溜めておける」
人とはちょっと違う視点。独創的。
「ドラえもんの異次元ポケット」
変わった人。もしくは変わった人と思われたい。もしくはドラえもん好き。
「スマホ」
スマホ依存症。
「まず、無人島はどこなのか、何日そこに滞在する予定なのか、気温はどうなのかで変わってくるだろ」
めんどくさい。
「唐揚げ注文したよね。遅くない?」
話、聞いてない。
「じゃあさ、無人島じゃなくて文明が衰退した後の世界ならどうする?」
お、新しい切り口。言い出した人にみんなが注目する。
「何らかの理由で人が極端に減って、文明が衰退した未来。その世界を歩きながら生存者を探して旅をするとしたら、何を持ち歩く?」
そういう映画やゲームはたくさんあるから、こっちの方がみんなイメージ膨らみそう。
「やっぱナイフだろ、いや銃か?」
バイオハザード。
「犬がいいなあ。敵が現れたら一緒に戦えるし、寂しさ紛れるし」
アイアムレジェンド。
「やっぱ水だろ」
水、大好きだなこいつ。
「ドラえもんの異次元ポケット」
ポケットだけじゃなくドラえもんも連れて行ってあげて。
「そもそも気温はどうなのか、夏か冬かで持ち物かわってくるだろ」
めんどくさい。
「スマホ」
いいからいったん、スマホ置こう。
「唐揚げまだ?」
話、聞いて。
「ラジオは? 放送局みたいなところで生存者に呼びかけるシーン、映画でよくあるよね」
あるね、その声をラジオで受信した主人公が指定された場所に向かう、みたいな展開。
「やっぱ水とラジオは欠かせないかな」
今日は『世界水の日』と『放送記念日』って言ってドヤ顔したいだけのオレが言う。
「唐揚げきた! そういえば今日、水の日とラジオの放送記念日だよ」
話、聞いてた。
オレは作りかけのドヤ顔をゆっくり元に戻した。
(了)