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走れ!タカマツ「人生は変えられるんです」

さて、問題です。
 これからのコラムにつながるクイズです。(  )に文字を入れて人名を作ってください。
 「走れ!タカ(  )」
 【タカ(ハシ)】にされた方が多いようですね。
 昔から野球がお好きか、カープファンか、村上龍さんがお好きなのでしょう。
 残念ながら違います。ヒントを追加します。
 ドラゴンズに関係があります。俊足です。
 【タカ(ギ)】ですか?
 間違っていませんが、このコラムのメインの選手ではありません。
 正解は、【タカ(マツ)】。高松渡選手です。

高松渡選手について
 高松渡選手は、1999年7月2日生まれ。兵庫県加古川市出身。2017年ドラフト3位で滝川第二高等学校からドラゴンズに入団。50m走5秒8、一塁到達最速3秒53の俊足を武器に身長176cm、体重65kgという現在のプロ野球選手としては比較的小柄な体でプロ野球界にすべり込んだ。
 入団発表で面白発言を連発し話題に。
 目標とする選手が宇宙人ことタイガースの糸井嘉男選手ということで、必要以上に面白おかしく取られてしまった可能性は否めない。
 私も高松選手の入団発表時の発言を知って、「リアル松野十四松(アニメ『おそ松さん』の登場人物)だ!」と思った。その天然ぶりと打撃が非力との情報を得ていたことと身体の線が細いこともあり、プロで通用するかなと懸念した。

「人生は変えられるんです」
 ある昼下がり、ウエスタンリーグ公式戦のテレビ中継を観ていた。
 高松選手の走塁に目を奪われた。
 猟犬を思わせるような素晴らしい走り。高い判断力を身に着けたら走塁のスペシャリストになれるかも知れないと、一発でファンになった。
 古くは元近鉄バファローズの藤瀬史朗さん、現代ではホークスの周東右京選手と自分の脚一本独鈷でプロ野球界で生き残っている人達が実在する。
 高松選手にもそうなって欲しいと願いはじめた。
 しかし、打撃の非力さや首脳陣が指摘する気持ちのムラっ気等の問題点があり、あまり名前を聞かない時期が続いた。大丈夫かな・・・・と親戚の子を見守るような心境で気にかけていた。
 そんな中、福音が。
 2021年シーズンは機動力野球を推進するという与田剛監督の方針で荒木雅博コーチ(A)の下に集まった「鉄「脚」ATOM」プロジェクトのメンバーに高松選手(T)が抜てきされたのだ。ちなみに他のメンバーは岡林勇希選手(O)、三好大倫選手(M)。
 上記の選ばれし精鋭3名と荒木コーチが四人五脚で脚のスペシャリストを目指すことに。
 東京中日スポーツの渋谷真記者のコラムによると、高松選手は荒木コーチに2年前のオフに「人生は変えられるんです」と伝えたという。プロ野球界で生き残っていく方法を考えていたのだ。脚力で生きていくためのヒントがあると考え、ビーチフラッグスの動画を見続けていたとのこと。自分でどうするかを考えて乗り越える力がなければ、いくらいい指導者に恵まれたところで本当の成長は望めない。「人生を変える努力」を高松選手は続けていたのだ。    

ミスタードラゴンズ・高木守道さんの思い出
 ビーチフラッグスで思い出したことが。
 40年くらい前に名球会inハワイをというテレビ番組を観ていた。
 タイトル通り名球会のメンバーがハワイに行きいろいろなことをするという番組内容。
 名球会メンバーがビーチフラッグに挑戦というコーナーの優勝者がドラゴンズOBの高木守道さん(故人)だった。高木さんは当時40歳前後だったが、子ども心に「この人、すごい。」と身体能力の高さに感心。過去に高木さんは首脳陣から「基本に忠実でないプレイだ」と批判されながらも、日系アメリカ人の先輩選手のカールトン半田氏から伝授されたバックトスを自分のものにするために猛練習を積み重ねて自分自身の代名詞にした。高木さんもバックトスで人生を変えた人なのだ。

1997年のある日の出来事
 高松選手の師匠の荒木コーチにもある思い出が。
 四半世紀前、私は愛知県内にあるアスリート御用達の整形外科で受付事務をしていた。
 1997年のある日、荒木選手が診察に訪れた。「心身ともに線が細そう」というのが第一印象。アスリートを見慣れた他の職員達も、「この子がプロ野球選手?」と口々に言っていた。院長も、「あれだけ線が細くてケガばっかりしてる子がプロでやってくのは無理だろ。」と冷静に言い放った。申し訳ないが私もそう思った。
 翌1998年から二軍監督に就任した仁村徹氏に鍛えられ、井端弘和さんとの「アライバコンビ」として一世を風靡するとはその時は思いもよらなかった。
 新聞やテレビ・ラジオ等で「アライバコンビ」の単語を見聞きするたびに、整形外科の受付で対応した日のことを思い出して感慨にふけっていた。
 荒木さんも「人生を変える努力」をしたのだ。
 高松選手は荒木コーチに出会えて幸運なのかもしれない。

実際に人生のハンドルを握るのはあなたなんですよ
 個人的な話で恐縮だが、今年初めに10年以上お世話になった精神科の主治医との別れがあった。がんが再発し余命宣告を受け、クリニックの閉院が決まったためだ。元主治医の口ぐせは「私は手助けをするだけで、実際に人生のハンドルを握るのはあなたなんですよ。」だった。一部では冷たい等の批判もあったが私は自分自身で考える教育を両親をはじめ周囲から受けてきたので、正論だと考えていた。元主治医のおかげで、「自分自身でハンドルを握ってより人生をより良い方向に進めていく。」術を身につけつつある。
 「実際に人生のハンドルを握るのはあなたなんですよ。」という元主治医の言葉を転院した今でも思い出す。
 「人生は変えられる」
 そのことを身をもって示す高松選手をこれからも見守っていく。

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※上記のコラムは文春野球フレッシュオールスター2021で努力賞をいただいた作品です。