友伴って、星と帰る 厚沢部町2
以前NGOで働いていたとき、チャリティーオークションで資金調達をしていた。
画家や陶芸家、書道家に作品を寄贈してもらいデパートの催事場で展示する。展示に訪れたお客さんは、気に入った作品があれば用紙に金額を記載して受付にある箱に入れる。最高金額の人が落札し、NGOへの寄付金となる仕組みだ。
チャリティーオークションの準備は半年ぐらい前から進むが、基本的にヨルダン国に駐在していた私は開催1か月前からの業務従事となっていた。事務所に届く作品のナンバリングや、展示当日のバックヤードでの入札用紙の集計、展示場での監視とお客様対応などである。
ある年のチャリティーオークションで、私の担当は書道作品となった。
書道なんて小学生のときの授業と、漫画「ばらかもん」でしか接したことがない。
次々と事務所に届く書道作品。目を凝らしても、なかなか読めない半紙。。。
オークション当日も仕切パネルにかけられた作品に目を凝らしていた。せっかくだから、これが私のお気に入りだと言える一枚を見つけたかったのだ。
書を見つめ、解説を読み、ときにはスマートフォンで調べ、一つの書を選んだ。
「伴帰無月村」
「伴っては無月の村に帰る」と読む。禅の一節だそうだ。
最初にこれを見たときは、友達と一緒に月の出ていない村に帰る情景が思い浮かんだ。
どうして月の出ていない寂しい夜にしたんだろうなどと思いながら。
調べてみると、この句の前にはもう一つの句があった。合わせるとこうなる。
「扶過断橋水 伴帰無月村」
「助けては断橋の水を過ぎ、伴っては無月の村に帰る」と読む。
杖をついて川を渡り(橋が壊れているため。)、杖をついて月の出ていない道を村まで帰るのだそうだ。
杖はhelpであるが、しかしhelpは外に求めるのではなく、自分の中に見出すものなのである。
そうすれば、橋が壊れていても川を渡れるし、月が出ていなくても村へ帰れるという教えらしい。
なかなか良い一節ではないか!
これだと思える書を見つけられて、心が小躍りした。
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先日まで、1か月ほど北海道の厚沢部町(あっさぶ)に滞在していました。
農業アルバイトと中型二輪免許の取得がメインの目的だったのですが、思いがけず狩猟免許取得のプログラムにも一部参加することができました。
私は本当に毎日、自転車で温泉に通っていました。
ある日の温泉は、珍しく他の参加者と一緒でした。
温泉を出た私は体の芯まで暖かくて、彼女と並びながら宿舎へ戻りました。
うすい街灯がただよう夜道を、キーコキーコと自転車が進みます。
前から後ろへ冷たい空気が顔を通過していきます。
ふと、彼女が言いました。「空、星がたくさん!きれい!!」
私はこのとき、あの句を思い出しました。
「伴帰無月村。伴っては無月の村に帰る。」
無月の村は、月の出ていない寂しい夜ではありませんでした。
無数に星が散らばる、明るくてうれしい、一緒にいられる喜びがたくさんの夜だったのです。
友伴って、星と帰る。そんな夜でした。