豊中ロマンチック街道十三次
以前このような記事を書いた。
思わぬ反響があり、とりわけ北大阪に縁のある人たちに好評であった。
「むむ、やはりファンの多い土地であるな」と改めて思ったのだが、ひとつ重大なことに気がついた。
そういえば、わたしはロマンチック街道を制覇していないぞ。
もちろん、以前は住んでいた土地。何度も何度も通行はしている。
ただ「徒歩で」「街道全体を」踏破したことは今までなかった。
むむ、ロマチカ・ラバーとしての沽券に関わるぞ、これは。
やってやろうじゃねえか。
……と、ここまで書くと、ロマンチック街道を知らない方は、四国のお遍路さんや市内一周のような規模ものをイメージされているかと思う。
申し訳ない。全長なんと約2.2kmです。
<公式ページのGoogle My Mapより>
お遍路さんと比べると、遥かにスケールは小さい。
でも構わない。そんなことは二の次だ。なんてったって、これは沽券に関わるのだ。
ところで、東海道五十三次という有名な作品がある。
この「次」というのは、宿場ごとに荷物を継ぎ替えたことに由来するらしい。
これはいい、題して「豊中ロマンチック街道十三次」だ。
学生時代は6年間も住んでいたのだ。思い入れのある宿場(ランドマーク)ごとに、荷物を継ぎ替える所存で踏破していこう。
<始まりの宿場>少路駅
ということで、やってきたのは大阪モノレール・少路駅。
ここから少し坂を下ったところでロマンチック街道は始まる。
昔はこの都会感に息を飲んだものだ。
車屋さんのキャラクターも「行ってらっしゃい!」と言ってくれた(言ってない)。
1. 一の看板(0.0km)
ここからロマンチック街道は始まる。何度か現れるこの看板をひとつの目印にして、旅をしていくことにしよう。なお、一とか二とかはわたしが勝手に言っているだけなのであしからず。
昔もあった「かごの屋」「かに道楽」は、今も健在だ。そういえば「かに道楽」には行ったことがない。あまりにもインパクトがありすぎるものは、時として人間の盲点に入るのだ。いや、単にお金がなかっただけです。
2. 二の看板(0.35km)
ランドマークを挟まずして、二の看板まで辿り着いた(そういえば、アドプト・ロードってなんだろう)。
見よ、この「外車感」を。
住み始めた当初は、この外車感に圧倒されたものだ。
こんな建物がスッと馴染む街並みってやっぱりレベルが高い。セレブだ。
3. サンマルク珈琲店(0.7km)
ここで最初のランドマークに到着する。
昔は「サンマルクパスタ」だったが、わたしが住み始めて少し経ってから改装された。サンマルク「カフェ」じゃなくて「珈琲店」としてオープンしたのは、ここが日本で最初なのだ。
なぜこんなに詳しいかというと、ここのバイトの面接を受け、そして落ちたからだ。
その時の恨みがあるわけではないが、まだまだ先は長いので、何も買わずに先を急ごう。人生とは、そういうものだ。
4. SOSH SQUARE(0.75km)
はちきれるほど野菜が食べれる、SOSH SQUARE。このロマンチック街道を代表するレストランである。
3階がバーになっていて、ここで友人と初めてのバー体験をしたものだ。当時はテーブル・チャージというシステムを知らず、居酒屋感覚で軽く一杯飲んで、その金額に目を丸くした(デートじゃなくてよかった)。
とはいえ、今考えると相当にリーズナブルな金額設定だった。いったいわたしはそれから何度、高いお金を払って飲みたくないお酒を飲んだのだろうか……。
立ち寄りたいところだが、お金と時間とお腹は有限だ。またいつか。
5. 消防署・マンション(0.95km)
何を隠そう、奥に見えるマンションはかつてのわたしの住処である。
ここの窓から、キビキビと働く消防署の方や、キャッキャと見学に来ていた小学生をよく眺めたものだ。
その度に、わたしもいつかは仕事するのか……という、期待とも不安ともいえない思いを抱いたことをよく覚えている。というか、今でも仕事に対しては期待も不安も抱いている。人はそんなに簡単に変わらないのだ。
6. 三の看板・スターバックスコーヒー(1.0km)
先ほどのマンションの斜め向かい、なんと住み始めてから新設されたスターバックスコーヒー。スタバが!新設って!どんな街だよ!!!
ここのバイトの面接にも落ちた。どれだけ落ちてるんだお前は。
7. ムッシュマキノ(1.1km)
ここもロマンチック街道を代表するケーキ屋さんだ。
全国からパティシエが修行に来るほどなのに、値段はびっくりするほど手頃。そして当然、美味しい。甘さがきめ細かい。
せっかくなのでケーキを買ったのだが、保冷剤が2時間しかもたないという。
一瞬にして、その後の旅は時間との戦いになった。
8. チャールスとん(1.2km)
ここらでロマンチック街道も中間地点。そろそろ昼食の時間だ。
美味しいお店が数えきれないほどあるので迷ったが、今回はとんかつの名店「チャールスとん」で一息つくとしよう。
店内では、豚肉の筋を切るカチャカチャという音が響き渡っている。美味しくない訳がない。
かわいいメニュー。からの破格の値段設定。
ロースかつ。これを食べるためだけにロマンチック街道に来た!ような気がしてくる美味しさ。お腹を満たしたら先を急ごう。
9. ドトールコーヒー(1.4km)
ここは、ここだけはわたしを落とさなかった。
その恩からか、5年半もここでバイトした。
(しかしほとんどカフェ・スキルは身についていない。以下参照)
改めてお礼を……と思って訪ねたら(わたしは義理堅いのだ)、知っている方は誰ひとりおられなかった。
勇気をもって話を聞くと「5年前にいた人はもう誰もいませんね……」とのこと。
時は経っているのだ。それも確実に。
ドトールだって40周年だもんな。そりゃ時も経つわ。
10. 四の看板・マイルストーン(1.5km)
そのドトールを前に、写っていないが実習先だった小学校を背中にして、四つ目の看板を撮影。いろんな思いはあふれるのだ。
また、そのすぐ近くにはマイルストーンを発見。いよいよ旅も終盤ということか(ここまで約1.5km)。
11. 五の看板(1.7km)
川を渡り、花を眺め、五の看板へ到着。
昔この辺りにあったレストランで、初めて奥さんを父に会わせた。街が変わるということは、思い出も変わるということなのだ。いや、思い出が変わるということが、街が変わるということなのか?
わからない。27歳でもわからないことはある。
12. 歩道橋(1.9km)
不動産屋さんに雑談で聞いたが、大阪のこのへんの地域は、電動自転車の普及率が非常に高いとのことだ。よくわかる。どこに行ってもこんな坂ばかりなのだ。
この坂もいつもは自転車で登っていたので、歩道橋は知っていてもスルーしていた。今日はせっかくなので渡ってみよう。
壮観だ。いろんな思いがあふれて、坂を転がり落ちていく。
13. 六の看板(2.2km)
公式HPによると、ここの交差点でロマンチック街道は終わりだ。
おおい。終わりにしてはあまりにも殺風景ではないか。なんかこう、祝祭的なものはないのか。転がり落ちていった思いはどうなるのだ。
でも大丈夫。こんなこともあろうかと、ちゃんと「終わりの宿場」は考えてある。もう少しだけ歩を進めよう。
道路の右側は荒れ地になっていた。This is the end of the Romantic-Road.
<終わりの宿場>箕面ビールWareHouse
ロマンチック街道の果てからもう5分だけ行くと、素敵なユートピアにたどり着く。
ちょっとツウな方なら知っている大阪の地ビール「箕面ビール」、なんとその工場直営店なのだ。できたての箕面ビールが楽しめる。
ああ、もう、選べない。ぜんぶ飲みたい。
壁には数々の受賞歴が。
これはなんといい旅の締めくくりではないか。
2.2キロでも、疲れたものは疲れた。自身を労おう。
ペール・エールにした。おさるさんがかわいい。
ひとくちで安寧の表情だ。
素晴らしい旅の終わりになった。
というか、後で振り返ってビールのことしか覚えてなかったらどうしよう。
おわりに
豊中ロマンチック街道十三次、いかがだっただろうか。
人生で初めてロマンチック街道を踏破した。思っていたより短く、また思っていたよりもエキサイティングだった。
おそらく、というかどう考えても、学生時代の方が今より時間はあったと思う。でも当時は、徒歩でロマンチック街道を制覇してみようだなんて考えたこともなかった。
人は、距離を置いたり時間が経過したりして初めて、何かを感じたり考えたりして、やりたいことに気づくのかもしれない。
今回わたしは改めて思った。
徒歩圏内にとんかつとケーキとコーヒーとビールがあるってすごくないですか。
帰ってからケーキを食べた。2時間以内に帰ってこれてよかった。
おまけ
ロマンチック街道が終わった直後に、こんな看板が現れた。
まだまだ知らないアドプト・ロードはあるのだな。
っていうか、看板のテンプレ一緒かよ。そしてアドプト・ロードってなんだ。