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君が死んだとき、何もできなかったけれど.

 君が死んだとき、私は何もできなかった.
私のウジウジを吹き飛ばすように笑って許してくれたけど、やっぱり湿度の高すぎる感じが残ったままでいる.

 「やっぱり人って死ぬよな」とか思っているうちに自分が死ぬことを思い出したりして、なんだか「死って近いなぁ」とか思ったのを覚えている.

「俺が死ぬ思うなよ」.

 ある人の死を看取ったあの日、確かにあの人は衰弱していた.
医者でない自分が見てもわかるほど、今にも死にそうな形相でベッドに横たわり、何も感じていないような様子だった.

 真っ暗な病室で小さなライトに照らされたあの人は、威厳というか、少しばかりの生命力をむき出しにしながら、浅くて弱い呼吸の音を響かせていた.

 呼吸音とは違う音が口から出ていたので、正直ビビりながら耳を傾けると、あの人は「俺が死ぬ思うなよ」と言って死んだ.

風が君を抜けて、海を渡ったりしている.

 君は信仰を持っていないと言って、しっかり持っていたりする.
人生のどこかで何かに頼ったり、すがったり、怖がったりする.

 正直ここで言いたいのは、何を信じるかとか、何を信じているかとか、何を信じたほうがいいとか、そんなことじゃない.
君は何も感じないと言うけれど、風は過ぎて、季節は変わり、多くの命が生まれては死んでいる.

 君もいつか、いや、私もいつか誰かにとっての「あの人」や「今日死んだ誰か」になるのだから、甲斐を気にせず、多くを大事にしていたいと思う.

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