バッハ シンフォニア第14番【解説】 BWV800
シンフォニアの中で最もストレッタ技法(主題が終わりきる前に次の主題が現れること)が使われている。音階の下行進行が多いが、これは嘆きではなく、天から降り注ぐ光を表している。全体に祝福ムードに覆われた楽曲。
下行音階は天からの恩寵
バッハにおいては、苦難や嘆きを表すことの多い下降音型ですが、この曲の場合は天からゆったりと降り注ぐ光のような印象を受けます。
下行音型が、何かが下り落ちているのではなく地平に光が広がっていくような感じです。
曲中に出てくる平行6度の響き等は、同時に降り注ぐ光の線と線の関係を想わせます。
あまり主観的なお話はしたくないのですが、このような音の調和は頭で考えて一生懸命行うよりも、身体に素直に任せて実現できた方が良いです。
分析だけで終わるのは寂しいですし、分析なくなんとなくの雰囲気で主観的に弾くのもかなり危険です。
ちなみに、平行6度が出てくるのは8、9小節目です。
主題とストレッタ
この曲の冒頭は、主題ー応答主題ー主題というフーガの定型がみられます。
しかしその間に間奏部分にストレッタが入るという定型外も入っています。
そして、この曲には多くのストレッタが入っています。
12小節目はおもしろいストレッタの形が出てきます。本来、8度で模倣されるところを半音ズラして7度で始めて模倣を開始しています。
普通に模倣を行うならば、こうなるはずです。
実際には、半音上げて、さらに半拍早く出てきます。ここでのシ♭はかなり影響が強く、全体は下降しているのにも関わらず、上空で留まっているかのような錯覚を起こします。
限られた鍵盤の幅の中で、狭いところをちょこちょこ動いているように感じないのは、こういった錯覚を起こす仕組みがたくさん使われているかもしれません。
ストレッタの真骨頂は20小節~21小節目にかけて現れます。
主題と応答主題で3つのストレッタが行われています。まさに、この曲がストレッタ技法の模範的楽曲だという強い意志表明を感じます。
しかし、フーガやこのようなストレッタは作曲に物凄い制約が課せられて作りづらいのではないかと思いますが、かえって発想を形にしやすいのかもしれません。
時代と共に作曲技法の制約はどんどん自由になっていますが、作品数は減っています。
それは『スタイルが決まっていて、無数の選択肢から選ばなくて済んだから』
と作曲家・矢代秋雄さんが言っていたのを思い出します。
また、人間の生活と繋がりのある音楽の作曲技法と共に、社会システムの制約が少なくなっていった事は、偶然か必然か考えさせられます。
構成
第一提示部(主調・変ロ長調)1~6小節
第二提示部(2度調・ハ短調)7~11小節
第三提示部(属調・へ長調)12~17小節
第四提示部(下属調・変ホ長調)17~21小節
終結句(主調・変ロ長調)22~24小節
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