サクラJK咲きほこる
「本日は取材にご協力頂きありがとうございます」
「……はい、よろしくお願いします」
「まずは率直にお聞きしたいんですが、最初にあのお仕事を指示された時はどういうお気持ちでしたか?」
「……それは、なんというか、困惑でしたね」
「困られたと。やはり、社内でも話題になったりとか?」
「そう、ですね。ただ、部署内では冗談でそういう話は出ていたので、結局そうなるのか、という感じの空気でした」
「社員でサクラを行うということに抵抗はありましたか?」
「なかったと言えばウソになるんですが、業務命令ですからね。仕事と割り切ればそこまでではありませんでした」
「成子さん(仮名)は女子高生を演じられていたということで、そういう部分での抵抗もなかったんでしょうか」
「……それについては……今の私の姿で察してください」
「ブレザー姿、お似合いですよ。ここに来られる際もその格好で?」
「いや、それはないです。こちらに来てから着替えました。これは仕事着ですからね」
「その仕事着も本社からの支給品なんですか?」
「違います。自分で購入しました。合うサイズのものを探すのにだいぶ苦労しましたね」
「ということは、成子さんとしては女子高生を演じることには最初からやぶさかではなかった、ということでよろしいでしょうか」
「……最初からそうだった訳ではないんです。やはり、部長という体面というものもありますし、まさか自分自身でやることになるとは」
「適性があったということなんでしょうか」
「はい。最初に役割分担を部署内で行うにあたって、AIを使ったコメントチェック、いうなれば演者としての適正検査を行ったんです」
「AIによるチェックとなると、忖度なしですね」
「そうです。そこで全員が幾つかの役割でチャットを行い、チェックしたんですが、女子高生については私がダントツの成績を収めました」
「ダントツですか」
「はい、現役の女子高生より女子高生らしい、という結果が出まして」
「それはすごいですね。では、実際のお仕事については特に苦労なく演じることができた、ということでしょうか」
「それが、そういう訳でもないんです。何度も挫折感を味わいました」
「挫折感、というと?」
「やはり、想像の中の女子高生には限界があったんです」
「それはある意味仕方のないことですね、世代も性別も違う訳ですし」
「そこで一計を案じまして、私の娘に事細かな監修をして貰いました」
「それはサクラということをお伝えになったんでしょうか」
「いえ、そこは相応に濁しながら企画の一環の体で、チャット上で違和感のないやりとりができるまで、付き合って貰いました」
「いい娘さんですね」
「はい、親ばかではありますが、素直ないい子です。申し訳ない」
「そうして、本格的ななりすましチャットを……」
「なりすまし、と言われるのはちょっと心外です」
「それは失礼しました。ただ、対外的にはそうなります」
「そうかもしれませんが……私にはもう、なりすますという次元の話ではなくなっているんです。そこには一人の女子高生が、居るんです」
「成子さんの中に、ということですね」
「そうなんです。そうしてその存在は日に日に大きくなって……」
「事前にお伺いしたお話では、既に退職されたとのことですが、今後はどうされるんでしょうか」
「はい、実は、タイへ行って性転換手術を受けようかと思っています」
「なるほど。それは思い切ったご決断ですね」
「そうでしょうか。……そうかもしれませんね。確かに、昨年の私が聞いたらきっと驚くでしょう。ただ、今回の件が明るみに出てあの仕事を奪われたことで、ようやく、自分自身の本当の欲求に気付いたんです」
「女子高生になりたい、と」
「はい!女性になって高校に入り、名実と共に女子高生となる、それが私の当面のライフプランです」
「何だか活き活きされていますね。その後のことはまだ?」
「まだまだです。女子高生には、無限の可能性があるんですから……」
「そうですね。ご家族はもうご存知なんですか?」
「はい……娘にはまだ伝えていないので、それだけが不安なところです」
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今回はこちらの記事に触発されて書きました。社員にひとり位は本域の人がいたかもしれないというお話です。
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