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相棒

日曜の昼。
空腹に耐え兼ねて表に出たものの、自宅からコンビニまでは結構な距離がある。だるい。ふと、カップ麺の自販機が、コンビニよりは近いゲーセンの駐車場にあったことを思い出す。

何とか、自販機まで辿り着いて腹もそれなりに満ちたので、漏れ聞こえる音に惹かれて、久々にゲーセンへ。

店内をぐるりと周ってみると、隅のシューティング台にて、不思議な光景が。よぼよぼのじいさんが二人並んでプレイしている。

まぁそれ自体はないこともないだろうけど、不思議さを醸し出しているのは、片方がレバー操作、もう片方はボタン操作という役割分担。見てみると、かなりの高次ステージっぽい。弾幕がすごい。
正直、あまりにうそ臭くて笑ってしまったけれど、老人特有のバイブレーションが超絶連射と、小刻みな避けを実現しているらしい。数人のギャラリーの中、危なっかしく二人三脚するじいさん達。見ると、ボムは全く使われていなかったようだ。

「ボム?知らん。おれぁこれで精一杯だ」
面白かったのと暇だったのもあって、話しかけてみた答え。
その割には、連射と長押しを使い分けてたけど、そこまでが精一杯ってことか。二人は、1プレイが終わると並んで店を出て行った。
正直、かっこいいと思った。

だいぶ経って、また久々にゲーセンに行って見ると例のじいさんが一人でプレイしていた。ボタン担当の方。

今日は二人じゃないの、と尋ねると
「あぁ。 ひぃちゃん死んだからな」
気難しい顔で、じいさんは黙々とプレイしながら応えた。
「だめだな。こっちはさっぱりだ。ちくしょう」
レバーをがちゃがちゃと揺らす。

じゃあ、俺が代わりにやろうかと言うとじいさんは黙って椅子を寄せた。
昔は随分慣らしたんだよと言いながら隣に座る。
いきなり雑魚弾食らって1ミス。

「兄ちゃん、下手だな」
そう言って、じいさんは嬉しそうに笑った。

昔々、テキスポにて行われた800字お題小説に投稿したもの。
テーマは「ゲーセン・老人・空腹」

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