ヴィンテージ参入への道しるべ (2)
これからヴィンテージを始めようという、強い意志を持ったプレイヤーの方向けの記事です。
ああ、どうか誤解のないように。この記事の中には「きつい言葉」が散見されるかも知れません。しかし、このフォーマットは遊べるようになるまでに多くの犠牲を払わなければなりませんし、遊び相手を見つけるまでにも時間のかかるものですから、言うなれば警告のようなものです。
先日投稿した記事を読み返していて、「カードを月額上限いくら」と決めて買うのと「一気に足りない分買い揃える」のはどっちが良かろうか、というのがちょっと気になったので、考え直してみることにしました。
→第一回の記事はこちらからお読みいただけますので、まだの方は是非。
マジックは娯楽です。また、これからの話は、あくまで個人的な見解です。また、私が参入した当初と相場やメタゲームが大分変動しております。将来に関する予測について、本記事中で述べることもありますが、最終的な参入・カードの取引等の判断は読者に委ねます。
1. 前回のおさらいと、今回の狙い
第一回目の記事では、雑多にカードを揃えるまでの道のりを紹介しました。本稿では更に具体的に「カードを揃える」ことについて掘り下げていこうと思います。具体的にはお金の配分のコツ、カードの買い方の提案、それからカードを買いそろえる上での、長い、長い、長い道のりへの心の持ち方、精神力の保ち方、本稿ではそう言う話をしたいと思っています。
2.メイン60枚がなきゃスタート地点に立てない
身内対戦であればカラーコピーしたカードや、カード名だけ書いたメモ用紙をプロキシカードとして使ってよいと思うのですが、それ以外の状況では、どんなプロキシカードであっても使うのはよろしくありません。ヴィンテージに参入するためには最低限60枚のメインボードが必要です。大会に出るなら、15枚のサイドボードがあった方が良いでしょう。最低60枚、通常75枚のカードを揃えるのがスタートラインです。
先日投稿した記事で触れましたが、マジックのカードには値下がりのリスクと禁止/制限カード指定のリスクがあります。2年間かけてヴィンテージに参加することにしたとして、2年間ずっと、「値下がらない」カードを買い続けることができるでしょうか? 自信がなくなってきますね。
3.相場の流れに従うか、逆らうか
カードの値動きの一例をみてみましょう。
2020年から過去5年間のトレンドを見る限り、枠の色を問わず、Black Lotusは上げ相場にあると考えられます。一方で、高額不動産の一角、白枠のVolcanic Islandは上げ相場が2018年まで続き、そのあとは下げ相場に転じています。もしかしたら、Revisedのデュアルランドにはある程度の流動性があるのかもしれませんし、2020年夏の時点で、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症の影響で、テーブルトップゲームの需要が減少し、一時的に値下がりしているのかもしれません。
いずれにせよ、マジックの主な市場は英語圏であり、その中でもっとも大きなマーケットはアメリカであろうと思います。アメリカで新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、一部地域では都市閉鎖など行われているようですから、Magic Arenaの需要は上向いても、テーブルトップの需要はまだ限定されているので下環境のカードも値下がりする、と理由付けすることができます。
カードの値段の上下が激しい時期や、2017年春のような「なんとなく古いカードが全部値上がってしまった」時期が、カードを揃えるための準備期間と重なると、出費が多くなる可能性があります。私が参入したときと比べて、状態が比較的良い白枠のBlack Lotusの値段は倍以上になっています。
まとまった資金が貯まってから一気にカードを揃える、というやり方があります。しかし、執筆時点でDredgeを組もうとすると、恐らく70-100万円くらいの出費を覚悟しないといけません。これだけポンとだせればいいのですが、多くの場合は、助走期間が必要です。
まとまった資金がたまるまで待っていると、カードの値上がりペースに対応しきれず、ヴィンテージデビューが遅れるという事態に陥いる可能性があります。そうすると、月単位で、いくらずつカードを買っていくという計画もよいでしょう。
資金調達のためにヴィンテージコミュニティへの参加が遅れ、機会損失を被っていると考える場合、ありもので仮のデッキを作り、毎月カードを買いつつ、デッキをアップデートさせていく戦略は合理的です。もちろん、完全に機能するヴィンテージのデッキと対戦して勝つ確率は低いと思われますので、コミュニティ参加で得られる利益とトレードオフになります。
デュアルランドはショックランドでもなんとか代用可能ですし、フェッチランドのコストと併せてライフ3点分のディスアドバンデージがあるものの、「いずれデュアルランドを揃えたらまともに機能するようになる」と割切って使うことができれば、デッキが完成されるまでの間にコミュニティに参加することも、その間にヴィンテージの第一線に立つこともできます。(比較的安めに参入できる、Bazaar of Bagdhadを採用したDredgeをHgaak Vineに移行させるか、Black Lotusを抜かした 3Cか4CのPlaneswalkerデッキを作成しつつ、並行して本命のデッキを作成する、というあたりが落としどころかなと思います)
私の場合を例に挙げましょう。私はアーティファクトが好きです。自分のターンの間に発生することだけに集中することができ、インスタントタイミングでスペルをキャストすることに思考をもっていかれないので、余裕を持ってプレイできるところが最高です。また、Mishra's Workshopを代表とする莫大なマナ加速が大好きです。極めつけはマナ加速からくる置物のTax効果です。Tax効果があっても自分だけは動けるだけの潤沢なマナがあるのは最高です。ですから、最初のデッキはMUDに決めていました。しかし、MUDは一朝一夕の予算では作成できません。したがって、まずMUDに一番近いデッキを目標にカードを集め、MUDに進化させていくという方法を採ることにしました。紆余曲折を経て、私のMUDは白エルドラージを経由することになりました。
ヴィンテージ紙デビューを果たしたのは、2016年の秋で、長野県の南松本市にある「はま屋松本店」でした。その時は、まだBlack Lotusすら持っていなかったのですが、白エルドラージで参戦しました。結果は散々でしたが、もの凄く楽しくプレイできたのを覚えています。
デッキはこんなんです。これでも2-3で負け越しだったと思います。
<Lands: 23>
5 平原/Plains
1 カラカス/Karakas
4 古の墳墓/Ancient tomb
4 エルドラージの寺院/Eldrazi temple
4 魂の洞窟/Cavern of souls
4 不毛の大地/Wasteland
1 露天鉱床/Strip mine
<Creatures: 24>
4 変位エルドラージ/Eldrazi displacer
2 封じ込める僧侶/Containment priest
4 難題の予見者/Thought knot seer
4 現実を砕くもの/Reality smasher
4 スレイベンの守護者サリア/Thalia, gardian of Thlaben
4 ファイレクシアの破棄者/Phyrexian revoker
2 ヴリンの翼馬/Vryn’s wingmare
<Artifact:13>
1 Mox pearl
1 Mox sapphire
1 Mox jet
1 Mox emerald
1 太陽の指輪/Sol ring
1 魔力の墓所/Mana crypt
4 アメジストのとげ/Thorn of amethyst
1 睡蓮の花びら/Lotus petal
1 梅澤の十手/Umezawa’s jitte
1 世界のるつぼ/Crucible of the world
Black Lotusを手に入れる直前のものですし、Moxen も中途半端です。しかしたら、Mox Pearlしかなくても、金属モックス/Chrome Moxやオパールのモックス/Mox Opalなどで代用していたかもしれません。白エルドラージを経て、MUDが完成するまで、実に12ヵ月以上を要しました。
このような、長い準備期間の間に、環境変化が起き、アーキタイプがメタから外れて勝てなくなったり、使われなくなるカードが出てくることもあります。これもリスクです。その前に払ったお金は、カードを売ることである程度取り返すことができますが、夢の巣のルールス/Lurrus, the Dream-Denが環境に登場したときのように、メタが全く塗り替えられてしまい、デッキの設計やカードの選定に大きく影響する可能性がゼロとは言い切れません。
マジックのカードは買ったあとしまい込んでしまうことはなく、通常デッキに入れて機能を果たすので、その間の値下がりについては関心が低くなる、ということもあります。カードショップに査定を依頼して下がっていても「まあ、これだけ遊んだしいいか」と自分を納得させられます。
こういう考え方は、精神安定剤として作用します。毎月カードが集まるのは目に見えて資産が増えていき、デッキもだんだん揃ってくるわけですから、ワクワクします。来月にはいよいよ大会だなあオイ! みたいな気分になってくるわけです。対戦型トレーディングカードゲームとは、そういうものだと思います。
4.理想は「納得できる値段で予算上限まで買う」
割高なカードを義務的に買うことほど辛いことはありません。イコリアの発売と同時にLurrus POというアーキタイプが一瞬ヴィンテージを席巻し、夢の巣のルールス/Lurrus, the Dream-Denの禁止とともに、そのままメタゲームから退場してしまったのですが、その時に私は4枚のミシュラのガラクタ/Mishra's Baubleを平均2600円で調達しました。「夢の巣のルールス/Lurrus, the Dream-Denが何らかの形で下方修正されることは読んでいて、高づかみも承知の上で購入する」という意思決定をしたのですが、これで1万円近く出費したかと思うと、自分で決めたこととは言え、自己嫌悪にもなります。
「月額上限枚数をきめて買う群のカード」と「そうしない群のカード」に分けて考える必要があります。
特に前者に「上げ相場のカード」が含まれていると、予算不足に悩まされることになります。上げ相場のカードは納得できる値段で、当月の予算が許す限り揃えた方が良い場合があります。カードを高づかみすることは間違いありませんが、「現時点で納得できるか、もしくは相場から見て適正な価格か」という判断が必要です。これには精神的なタフさが要求されます。
乱高下するタイプのカードは購入量を毎月1枚ずつに押さえておくという小技があります。
これをすると、値段が購入月によってバラけるので、値段の高い低いが均されて、長い目で見るとお得、ということになります。これも一種の精神安定剤です。
5.カードの値動きについて
「デッキの値段は、積まれたカードの値段の総和」です。デッキ全体の値段を見ても、それぞれのカードの相場はわからないのです。
それぞれのカードの値段が上げ相場なのか、下げ相場なのか、それとも変動を繰り返しているのかをまず知ることが、「毎月カードを買う方がいいのか、一気に揃える方がいいのか」という話を解決するヒントになると思うのです。ただし、スタンダードリーガルのカードとそれ以外のカードは「WotCの印刷による市場への供給」がある点で別物と考えるべきです。
「多くのカードは、スタンダード落ちしたあとの期間の方が長い」です。
大会で結果を残したデッキリストを見渡してみたり、あるいは新しいエクスパンションが発売されたあとに、「このカードなら入るんじゃないか」と夢想することを止めるわけではありませんが、1つのエキスパンションで追加されるカードのうち、ヴィンテージで常用できるレベルのカードが2枚もあれば、極めて上々というところです。博打に近いですが、当てられるなら初動で買ってしまったほうがお得です。
カードの値動きはスタンダードの間のことが注目されがちですが、カード自身は再録されない限り、下環境でリーガルである期間の方が長いわけです。したがって、スタンダードでどんな高値をつけていようとも、下環境で価値を見いだされた僅かなカードだけがチヤホヤされ、残りのほとんどは店頭のストレージボックスで、かつてより安い価格を付けられ、眠ることになります。
そんなわけで、よほど急ぐ理由が無ければ、スタンダードが落ちてから買っても遅くないと思います。スタンダードはプレイ人口が多いため、下環境に移行した際に全く違った評価がされ、そのまま値段に反映されることがあります。初動か、落ちてからで買うのがベストだと思います。
6.同型再版・再録に対する考え方.
たとえば、同型再版により、価値を失うカードもでてくるかもしれません。古いカードは印刷された枚数が少ないため、それだけで価値があり、値段に転嫁されていますが、再録やバリエーションの出現により値段が下がることがあります。これらの多様性の出現は価格面では歓迎されないかも知れませんが、デッキの幅を広げるのには大いに役立ちます。
再録禁止カードは一般的に「二度と収録されない」と信じられていますが、亜種を作ることには何の制限も課せられていないので、亜種によって値段が下がることがありますし、亜種のほうに価値が見いだされることもあります。
ヴィジョンズに収録された孤独の都/City of Solitudeをみてみましょう。
このカードは再録禁止カードに登録されています。
City of Solitude / 孤独の都 (2)(緑)
エンチャント
プレイヤーは、自分のターンの間にしか呪文を唱えられず能力を起動できない。
色拘束とマナコストから、このカードはヴィンテージにとっては使い勝手のいいものとは言えません。強いて言うなら、Dark Petition Stormに入りそうですが、このために緑をタッチするほどの価値があるとも思えません。
もしかしたら、Hogaak Vineなら望みはあるかもしれませんが、あれには、耳の痛い静寂/Deafening Silenceで十分です。
このカードの色拘束を無くして、効果も少し緩めてみましょう。
Defense Grid / 防御の光網 (2)
アーティファクト
各呪文は、それのコントローラーのターンの間を除き、それを唱えるためのコストが(3)多くなる。
コストは(2)で軽くなった代わりに、追加のマナコストを要求するだけになりました。序盤に展開してカウンターを妨害すると考えれば十分な能力です。これはコンボ系のデッキが序盤の軽量カウンターを凌ぐのに適切です。Dark Petition Stormが採用するならこちらのほうがよいでしょう。
アーティファクトなので、Shopsで採用できそうですが、既にTax効果のあるSphere of Resistance/抵抗の宝球やThorn of Amethyst/アメジストのとげがあるため、採用の余地はあまりなさそうです。採用するなら、活性の力/Force of Vigor対策ですが、余りにもニッチすぎます。せいぜいサイドボード要員でしょう。
そして、さらにカード・タイプをインスタントだけに限定して、プレインズウォーカーに魔改造するとこうなります。
Teferi, Time Raveler / 時を解す者、テフェリー (1)(白)(青)
伝説のプレインズウォーカー — テフェリー(Teferi)
各対戦相手はそれぞれ、自分がソーサリーを唱えられるときにのみ呪文を唱えられる。
[+1]:あなたの次のターンまで、あなたはソーサリー呪文をそれが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。
[-3]:アーティファクトかクリーチャーかエンチャント、最大1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。カードを1枚引く。
常在型能力以外についてくる忠誠度能力が強力ですし、盤面のパーマネントにも触れます。JeskaiやEsper colorに入れるなら、孤独の都/City of Solitudeは論外にせよ、防御の光網/Defense Gridよりもこいつでしょう。スロットが許せば2-3枚の採用を検討できます。
多様性が生まれることで、オリジナルのカードが手の届きやすい値段になったり、採用カードの選択肢が広がることがあります。修繕/TinkerとTransmute Artifactのように、リメイクによってオリジナルを超えたりすることもあるので、同型再版や亜種が増え、カードのバリエーションが生まれることは歓迎するべきことです。
7.まとめ
ここまで読んで頂いてありがとうございます。長くなりましたが、この記事で言いたいことは、長いヴィンテージへの準備期間の間にカードの値段の変動を経験するため、「殆どのプレイヤーは恥を忍んで高い値段でカードを買い、唇を噛みながら安い値段でカードを売る」ということです。それはまったく恥ずかしいことではありませんし、ダサいことでもありません。
我々は、そういう経験を「まあこのカードで遊べたからいいか」とか「大会で勝ったからいいか」とか考えながら薄めていくのです。
SNSの向こうの誰かが安い値段でPower9を掴もうとも、かつてデュアルランドを安値で手に入れていおうとも、あなたのヴィンテージライフには関係のないことです。現在の適正な値段で、適切な状態のカードを手に入れることこそが最も重要だと思います。
SNSなんかで「オリパからアンシーが出た」とか「買ったパッケからFoilの天野リリアナが出た」とかいうのを聞くと悔しい気持ちになりますが、このことを思い出して耐えてください。お願いします。